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「でも、氷点下16度の寒さの中を600km以上走らなければならなかった日に比べれば怖くありません。その時は服を10枚重ね着しても手足の感覚がなく、30km走るごとに止まってバイクのマフラーで手を温めていましたから」。
砂嵐を抜けると、次はキルギスにある標高4000km近い峠を越えるという困難が待ち受けていた。険しい岩だらけの道に、片側は高い山、もう片側は深い断崖。「無限に続く音楽のように坂を上り、下りました。この山を征服することはバイカーたちの夢です。でも、あまりにも過酷で私は途中でリタイアしなければなりませんでした」とフンさんは語る。
ある夜は、道端に張ったテントの中に座り、ありったけの服を着ても歯がガチガチと鳴った。寒さと空腹と息苦しさの中でも、フンさんは「ここで一夜を過ごすことにも価値がある」と自分を慰めた。
フンさんに同行したガイドは、「フンさんは(私にとって)お客さんですが、道に迷ったり、食事や睡眠をとる場所が見つからない時でも文句ひとつ言いませんでした。フンさんが私たちの世話をし、励ましてくれることもありました。特にフンさんのバイク修理の腕前にはたくさん助けられましたし、外国人の修理工でさえ感心していました」と語る。
旅の途中で起きた数々の事故の痕跡は、折れたミラーや長い傷のついた車体、ぼろぼろのリアボックスに今でも残っている。「カザフスタンの高速道路で転倒した時、ミラーが折れて数十m吹っ飛びました。私の身体は路上を滑り、服は破れ、(服の)羽が雪のように舞いました」とフンさんは振り返る。
4万5000kmの旅は、フンさんに「お金で買えない」感覚を与えてくれた。フンさんにとって最もロマンチックな思い出は、シルクロードの終わりにあるキルギスだ。危険な道もあったが、そこには山々がそびえ、荒野が広がり、山腹で家畜が放牧され、遊牧民が穏やかな暮らしを送っていた。