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チュンさんの退院後、田舎には働き口がなかったため、チャンさんはしばらくハノイ市で飲み物やトウモロコシを売って生計を立てていたが、現在はハノイ市郊外のタインチー郡で工員として働いている。給与は月に450万VND(約2万1200円)だ。
チュンさんの母親のビンさん(67歳)も時々仕送りをしてくれるという。「息子夫婦には子供はいませんが、チャンさんは1人で9年もの間息子の面倒をみてくれています。チャンさんには心から感謝しています」とビンさんは語る。ビンさんは変形性脊椎症を患っているため、チュンさん夫婦がハノイ市へ移り住んで以降、チュンさんには一度も会えていない。
チャンさんもまた、ハノイ市へ来てから帰省したのは母方の祖父が亡くなった時の一度きりだ。その日はチュンさんを隣近所に預けて出かけることにしたが、チュンさんを夜に1人で寝かせるわけにはいかないと、早朝にバスに乗って田舎へ帰り、葬儀を終えるとその日の午後には田舎を発ってハノイ市へ戻った。「この9年、故郷でテト(旧正月)を祝ったことはないですね」。そう話すチャンさんの頬を涙がつたう。
チャンさんは毎朝5時に起床するとチュンさんの体位を変え、身体をマッサージして血の巡りを促す。終わると、体重わずか35kgの細腕でチュンさんを抱えて椅子に移動させる。「私も若い頃はふっくらとして可愛かったんですよ。今じゃこんな風になっちゃいましたけどね。チュンさんが元気になったら、私のことを年寄りだとか醜いだとか言って、別の若い子の方に行っちゃうのかしらね」とチャンさんが冗談めかして言うと、チュンさんはチャンさんの方へ頭を向けて笑った。
チュンさんの身支度や食事を終えると、チャンさんは慌ただしく自分の食事を用意し、着替えて7時過ぎには出勤する。「お利口さんでいてね。喉が乾いたらお隣さんに聞こえるように大きな声を出すのよ。じゃあ、行ってきます。お昼には戻るからね!」
チュンさんは全身不随ではあるが、意識ははっきりとしている。しかし、そうとは知らない人たちは部屋の外でチュンさんのことや、夫婦の境遇についてあれこれと話すことがある。ベッドの上でそれを聞いているチュンさんは1人涙を流す。こんな時、チャンさんはどうしようもなくいたたまれない気持ちになるという。
まだ元気だった頃のチュンさんはとても気遣いある人だった、とチャンさん。交際していた当時、チャンさんが盲腸で入院した時は身の回りの世話をしてくれたそうだ。今のような暮らしで一番辛いのは夫だとチャンさんは言う。