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初めて運転した日のことを彼女はこう振り返る。「初めて運転した日は嬉しさでいっぱいでしたが、少し緊張もしていました。その時運転したのは、サデック市とホング郡(ドンタップ省)の間を結ぶ35人乗りのバスでした。1人の男性の乗客は、私を見ると怖がって切符をキャンセルしてしまいました。私は男性に『女だからって何だというの?運転できれば同じこと。男にできて女にできないことがあるもんですか。怖がらないで』と言いました」。
フインさんにとって、バスの運転手という仕事はこの上ない喜びなのだという。「どんな仕事も立派な仕事。何か夢中になれるものがあれば、それを追求するだけです」と彼女は言う。それでも仕事が終わって家に帰ると、燃え尽きたように疲れ切って運転のことなど考えられなくなる。そして時間が来れば、またハンドルを握る。
数か月前、彼女は長時間座り続けたことによる背骨の病気で入院し、4か月もの間仕事を休まなければならなかった。家で療養中だったフインさんは、カオライン~ホーチミン間のバスにいつもの彼女がいないことを気にかける同僚たちから届く便りに慰められていた。
仕事を休んでいる間、たくさんの人が彼女の不在を寂しがった。その中には乗客だけでなく道路の料金所の人などもいて、ある時は国道にしばらく姿を見せなかった彼女を案じた交通警察官までもが電話をかけてきたという。
「何日間も体調を崩すこともあるので、家族は運転手の仕事を辞めるよう勧めますが、そんなことはできません。元気になったらすぐに仕事に復帰します。やっぱり運転が好きでたまらないんです。体が言うことをきかなくなるまでは走り続けるでしょう」。
常にハンドルの前に座り続ける彼女の信念は、「乗客の命が最も大事。ハンドルを握ればひたすら頑張って、目的地まで安全に乗客を送り届けるのみ」だ。