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朝9時、中部高原地方ラムドン省にある牧場は、シンフォニーの穏やかな音色に包まれる。100頭の真っ黒な牛たちが寄り集まって、食事が運ばれてくるのを待っているようだ。飼育員の車がやってくると、牛たちは車の中に頭を入れたりして、とても人懐っこい。ベトナムで飼育されている牛と外見が全く違うこの牛たちは、ベトナムで育てられた「神戸牛」だ。
ベトナム初となるこの神戸牛牧場を始めたのは、サコムバンク[STB](Sacom Bank)の元会長で発電や精糖事業を手掛けるタインタインコングループ(Thanh Thanh Cong Group)のダン・バン・タイン会長と、爪切り製造で有名なケムギア社(Kem Nghia)のグエン・ミン・トゥアン社長。きっかけとなったのは、彼らが日本に出張したときのこと。取引先との会食で神戸ビーフを口にし、そのあまりの美味しさに感動して、ベトナムで飼育することができないものかと考えた。ここから畑違いの彼らの挑戦が始まった。
神戸牛をベトナムで育てるには、長年の経験を持つ飼育技術者の参画がどうしても必要になる。タイン会長とトゥアン会長は、日本の各神戸牛飼育施設を回り、2人の日本人技術者を説得して50%の出資を受け、2009年に「神戸牛ベトナム社」を設立した。
現在、中部高原ラムドン省バオラム郡タンラック村の茶畑やコーヒー畑の間にある神戸牛牧場では、日本の神戸牛の「ハーフ」100頭の牛が育てられている。日本は現在、神戸牛子牛の輸出を認めていないため、米国から輸入した神戸牛の精子をベトナムの雌牛と交配させ、まず神戸牛の血を50%受け継ぐ「F1(交雑第1種)神戸牛」を誕生させた。
今後、更に米国神戸牛の精子をF1神戸牛と掛け合わせ、神戸牛の血を75%受け継ぐ「F2神戸牛」を誕生させる予定だ。更に、米国神戸牛の精子をF2神戸牛と交配させれば、神戸牛の血をほぼ100%受け継ぐ「F3神戸牛」をベトナムで作り出せることになる。
しかし、現在の頭数まで増やすのは簡単なことではなかった。神戸牛はベトナムの牛に比べて抵抗力がかなり弱いため、最初に飼育していたうちの2割は死んでしまったという。