(C) Dantri,主演女優グエン・トゥイ・アン(左)とグエン・バン・トゥアン(右) |
ベトナムの映画史に燦然と輝く名作「無人の野」(1980年)。1981年にモスクワ国際映画祭で金賞、国際映画批評家連盟賞(FIPRESCI)を受賞した長編劇映画である。グエン・ホン・セン監督の手腕や出演者の名演、チン・コン・ソンの美しい音楽などが高い評価を受けた。しかし、この映画を観て最も心に残るのは主人公夫婦の息子として出演していた当時生後9か月の赤ん坊だろう。映画の公開から30年余り、私はかつての「赤ん坊」を探す旅に出た。
メコンデルタ地方のロンアン省、ティエンザン省、ドンタップ省に跨る「ドンタップムオイ地域」。かつては米軍からの爆撃にさらされ荒廃しきった土地だった。この地に住む貧しい一家の子供。それ以外に「彼」に関する情報は殆どなかった。私は「彼」の手掛かりを求めて、映画に出演していたというダン・チュム・タム氏(当時ロンアン省モックホア郡人民委員会主席)に話を聞きに行くことにした。
既に80歳を過ぎて引退しているタム氏だったが、私の質問に対して、はっきりとした口調でこう答えた。「あの子役の名前はグエン・バン・トゥアン。グエン・バン・ベトの息子で、あの映画の監督を務めたホン・センは彼の叔父にあたります。今はホン・センの故郷であるタンフン郡ビンブー村に住んでいます」
映画の「彼」の姿を思い起こしながら、タム氏は興奮気味に語ってくれた。「あの子役こそ真の役者です。主人公夫婦が立たされた苦境や彼らの不屈の精神はあの子によってより強調されている。米軍の飛行機が来るシーンでは、子供をナイロンの袋に入れて水に沈めたり、子供が水に落ちたりするシーンもあります」