(C) Dantri,主演女優グエン・トゥイ・アン(左)とグエン・バン・トゥアン(右) |
ベトさんが兄弟や友人たちを呼び集めると、あれよあれよという間に宴会が始まった。村の男達は皆酒豪揃いで、飲めや歌えの大騒ぎとなった。ドンタップムオイ地方の夜は静かで、私たちの宴会の音だけがどこまでも響いていくかのようだった。そして、酔も回った頃、トゥアンさんはようやく自らのことを話してくれた。
彼は大きくなってから映画を観て感動し、叔父と同じ芸能の道を歩むことを夢見たという。成長したトゥアンさんは村でも評判の男前になり、その笑顔は憧れの叔父に似ていた。17歳になるとサイゴンに出て、叔父の援助を受けて俳優になる道を目指した。しかし縁がなかったのか、叔父はその後すぐ病気になり1995年に他界した。
拠り所をなくしたトゥアンさんは故郷に帰って農家を営むことにした。結婚し子供をもうけて、畑仕事に励む毎日を過ごしていくうちに、かつての夢は若き日の思い出へと変わっていったという。
「後から思うと幸運でした。俳優の仕事は不安定で生活も苦しいと聞きます。今の私の暮らしは安定している」ベトさんによると、トゥアンさんは現在、10ヘクタールの田んぼと脱穀機、田植え機を保有し、その資産額は30~40億ドンに上る。南部解放後、僅か1ヘクタールの田んぼしか持たず、貧しい生活をおくっていたベトさんにとって、トゥアンさんは自慢の息子だという。
母親は当時栄養不足のせいで乳があまり出なかったので、重湯を足さないといけなかった。そのためトゥアンさんは痩せた子供だったが、今となってはこの地の大富豪だ。皆30年以上も前の話を、つい昨日のことのように話してくれたのが印象的だった。