(C) Dantri,主演女優グエン・トゥイ・アン(左)とグエン・バン・トゥアン(右) 写真の拡大 |
私はタム氏の言葉を頼りに、ビンブー村を訪れることにした。村民に尋ねたところ、この村で「彼」を知らない者はいないという答えが返ってきた。村に入り、さらに5キロほど進んで川を越えたところで1人の村人が教えてくれた。「あそこに見える新しい家が彼の家で、隣に建っている古い家がホン・センの家です」
私が「彼」の家を訪ねると、彼の母親と奥さんが迎えてくれた。「トゥアンは今、畑仕事に出ています。父親のベトは外で飲み仲間とお酒を飲んでいるところです」家には元気そうな子供がいて「お客さんだよー!」と叫びながら走り回っていた。
ベトさんが帰宅すると、まるで古くからの友人のように暖かく迎えてくれた。「私もあの映画に出演しているんだよ。ゲリラの役でね」。しばらくすると、トゥアンさんが畑仕事を終えて帰ってきた。かつての赤ん坊は、いまや逞しい34歳の男性に成長していた。彼の手には綺麗に束ねられた稲が握られていた。
ベトさんが「新聞記者の方が来ているぞ」と告げるとトゥアンさんは少し恥ずかしそうにした。話かける隙もなく、2人の子どもが「父さんが帰ってきた!」と言って駆け寄り、すっかり父親の顔になった「彼」に纏わり付いて放れなかった。
ドンタップムオイ地方では日が暮れるのが早い。訊きたいことは山ほどあったが、雲行きも怪しくなってきたので、「そろそろおいとまを」と告げたところ、「町まで30キロはある。日も暮れてきたし、雨も降りそうだから、今夜は泊まっていったらどうかね?」とのベトさんの言葉があり、折角なのでそれに甘えることにした。