1977年生まれの中国の作家鳳歌が書いた小説『崑崙(こんろん)』がベトナムで人気を集めている。全7巻(合計2540ページ)の大長編小説が発売後わずか2カ月ほどで初版2000セットを完売、出版社は2000セットの増刷を決定した。
これは元の小説の面白さもさることながら、31歳の若手翻訳家ダオ・バック・リエンによるところが大きい。彼女のベトナム語は明せきで分かりやすく、ベトナムの民間伝承の詩やことわざを折り込んでいるので読む人のつぼにはまり、登場人物の魅力が十分に描きだされている。
婦人出版社は当初この本の翻訳出版をちゅうちょしていたが、リエンは出版するよう助言した。そればかりか彼女は、本の値段を安く抑えるために印税の受け取りを辞退するという行動に出て、出版界全体を驚かせることとなった。「よりたくさんの人に読んでもらうために」と彼女は言う。
婦人出版社によると、通常ならば『崑崙』7巻セットの価格は50万ドン(約2500円)以上になるという。印税率10%を適用すると、初版分だけでも印税は約1億ドン(約50万円)に上る。しかし彼女が辞退したおかげで、実際の価格は42万2000ドン(約2200円)に抑えられた。
リエンは毎日午後10時から午前2時までを『崑崙』の翻訳に充て、2年5カ月かけて訳し終えた。文章を書きたいという彼女の夢はこの翻訳でかなえられたという。でもお金は? との問いに、「生活が楽なわけではないけれど、翻訳の仕事は本業ではありませんから。翻訳していなかったら夜は映画を見ていただけでしょうね」と笑って答えた。