「皆いぶかしげでしたね。月収2000万VND(約12万円)を捨てて、1足1万VND(約60円)で靴を磨くことに価値があるのか、と質問してくる人もいました。それでも私は、自分の選択に確固たる自信があったんです」とフォンさんは語る。
(C) dantri |
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靴磨きの仕事を始めた当初、フォンさんが直面した問題はお金ではなく、ブランド靴だった。中には超高級な靴の手入れを依頼されることもあり、そういった仕事を引き受けるときには極めて慎重に対応した。
「靴磨きの仕事は単純だと思われるでしょうが、実際はこの仕事を始めてから自分自身を改め、日々学び、経験を積まなければなりませんでした。超高級な靴もありますし、失敗は許されません。わずかなミスでも弁償しなければなりませんし、お店の評判も下がりますから。1足数千万VND(1000万VND=約6万円)、ときには1億VND(約60万円)を超える靴もあるのですが、靴を持った手が震えてしまって。壊してしまうのが怖くて、どう扱ったらいいのかわかりませんでした」とフォンさんは話す。
靴磨きの仕事で安定した収入が得られるようになった2019年末、飛ぶ鳥を落とす勢いでフォンさんは友人2人とともに靴磨きの店を開く場所を借りる準備を始めた。しかし、間もなく新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流行し、友人2人は先が見えないと言って諦めてしまった。
「当時は文字通り1人でもがいていましたね。諦めたくはないけれど、続けるにはあまりにも大変で。数か月はほとんど売上がなく、運営コストとスタッフの給与を差し引いて、手元に200万VND(約1万2000円)しか残りませんでした。大変な時期が長引き、家にはまだ小さい子供もいたので、靴磨きは諦めて就職しようと思い、有名ブランド店の仕事に応募したこともあります。でもそのときは双方の意見が合わず、うまくいきませんでした」とフォンさん。
フォンさんはブランド品については門外漢だったが、後に有名ブランド店で1年近く働きながら学び、経験を積んだ。それからさらに半年かけてハンドメイドの革工房に通い、革製品について学んだ。
独学と経験を積んだフォンさんはついに、プロの靴磨き職人となり、高級革靴の手入れを手掛ける店のオーナーとなった。