ハノイ市在住のディン・タイン・フォンさん(男性)は、外資系企業のITエンジニアとして働き、2000万VND(約12万円)以上の月収を得ていた。しかし、革靴への愛着から靴磨きを突き詰めたいと考えるようになり、友人たちからいぶかしげな視線を向けられながらも2018年にITエンジニアの仕事を辞めることにした。
(C) dantri |
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「当時は、誰が見ても安定した仕事に就いて高収入を得ているのに、と思われたでしょう。でも私自身は、毎日仕事に行って月末の給料日を待つだけで、同じことの繰り返しでした。そんな生活が退屈で、満足できていませんでした」とフォンさんは語る。
もともと革靴が好きで、毎日仕事に行くときはスラックスにワイシャツを合わせ、革靴を履いていた。そんなフォンさんに、あるカフェのオーナーが「靴を売ったらどうだ。良いお客さんを紹介するよ」と言った。しかし、フォンさんは靴を売りたいのではなく、靴を磨く仕事がしたいと考えていた。
「世界では、靴磨きの仕事はずっと昔からあります。ベトナムでは、靴を売る人は多くても靴の手入れをする人はいません。思い立ったが吉日、その日のうちに『靴磨き屋(Tiem Danh Giay)』というファンページを立ち上げました。起業して、最初のお客さんたちは皆、そのカフェのつながりの人でした」とフォンさんは話す。
起業したばかりのころはまだ経験もなかったため、会社員を続けながら靴磨きの仕事をしていた。昼間はオフィスに出勤し、夕方から靴磨きをした。「当時の私はとても貪欲で、毎晩寝室の隅にある机の前に座って、深夜まで靴を磨いていました。午後にお客さんから受け取った靴は、夜のうちに何としても磨き上げて、翌朝にはお戻ししないといけなかったので」とフォンさん。
実務を重ねながら靴磨きを学んだフォンさんは、起業した数か月後、ベトナムでは路上の靴磨きばかりに慣れていて、誰も正しい靴の手入れの仕方を知らないということにふと気づいた。それで、標準になるような靴磨き屋を開きたいという思いがふつふつとわいてきた。
フォンさんが友人たちにこの話をすると、支持する意見の一方で、ITエンジニアとして高収入を得ていながらそれを捨てて靴磨きに転職するなんて信じられない、と「ショック」を受ける人も少なくなかった。