その年、クックさんはテト(旧正月)に田舎へ帰らないことにした。旧暦の大晦日、お供え物を用意してから、いつものように宝くじを売りに出かけた。
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「親戚から電話でどうして帰って来ないのかと責められましたが、本当のところ、1人で部屋にいてもとても悲しい気持ちでした。元日の朝に外に出ても人がおらず、そこで初めて泣きました。そして、テトには田舎に帰り、娘のためにきちんとお供え物をしなければいけない、と思い直しました」とクックさんは話す。
以来、クックさんは毎年旧暦12月20日に田舎へ帰ることにしている。バスのチケット代は片道50万VND(約2300円)。田舎へ帰るためには、少しでも多く宝くじを売ってお金を稼がなければならない。
そんな中、クックさんのように経済的に困難な状況にある人々のテトの帰省を支援するため、財政省傘下のベトナムコンピュータ宝くじ社(ベトロト=Vietlott)は毎年、ホーチミン市在住の500人余りを対象に無料の帰省バスを運行している。
「ここ2年は、無料バスのおかげで200万VND(約9200円)以上も節約できました。お年玉ももらえて、とても心が温まります」とクックさん。今のクックさんにとって、テトが来るたびに田舎へ帰って、1年に1回、娘の祭壇とお墓の世話をすることが唯一の生きがいとなっている。