ホーチミン市1区中心部のサイゴン中央郵便局には、いつもこざっぱりした身なりで控えめながら、嬉しそうに旅行客にホーチミン市の話を聞かせるおじいさんの姿がある。このおじいさんが言わずと知れた、ベトナムで最も長い間英語やフランス語の手紙を代筆してきたズオン・バン・ゴさんだ。
(C) vnexpress, My Phuong |
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ゴさんは86歳になった現在も、毎日ビンタイン区ティゲーから自転車をこいで中央郵便局まで通っている。1通あたり1万~1万5000 VND(約45~68円)程しか代筆料を取らないゴさんは、代筆は生計のためではなくベトナムの国のためにしているのだと語る。
ゴさんは、16歳だった1946年にティゲー郵便局に就職し、2年後にサイゴン中央郵便局に移った。36歳の時、語学力の高さを買われて郵便局の代表として語学学校に通い、英語とフランスを習得。その後、1990年に定年を迎えてから現在まで、26年間にわたり代筆屋を続けている。
郵便局には毎日国内外から数百人の客がやって来る。多くの客がゴさんを訪ねては記念写真を撮り、手紙の代筆を依頼する。ゴさんもまた旅行客にホーチミン市の歴史を語り、訪問すべきスポットを紹介する。ゴさんのこの謙虚で親身な姿勢が旅行客に美しいベトナム人像を与え、世界各国からゴさん宛てに写真や手紙が届く。
ゴさんにはこれまでに出会った人々との数えきれないエピソードがあるが、なかでも忘れられないものがある。それは、両親が1956年から1958年にかけて住んでいた家を探しにベトナムへ来たというフランス人夫婦の話だ。
夫婦はたまたま訪れた郵便局で、ホーチミン市の長い歴史に精通したゴさんに出会った。夫婦が事情を話すと、家の特徴を聞いたゴさんは夫婦を旧フランス大使館近くの場所まで連れて行った。