しかし近年、長きにわたり受け継がれてきた木靴作りの伝統が危機にさらされている。ソムグオック通りでもフンさんのような職人は減りつつあるという。木靴作りだけでは生活を維持していくことが困難だからだ。ほとんどの工房は家族経営で、代々続いてきた伝統を継承している。
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この地にある木靴工房の中で、一番のベテランはサウ・デオさん一家だ。一家の手だけでは足りず、更に人を雇っている。デオさんは60歳近い。一家が工房を始めてから40年、ただひたすら木靴だけを作り続けてきたという。
デオさんは、「以前は前の通りもずいぶんにぎやかだったものさ。父と夫の工房にも100人ほどの職人がいて、1日中木靴を作っていた。納期に間に合わせるために、ランプの明かりで夜通し作ったこともあったね。木靴作りは一時期、かなり盛んだった。私たち夫婦が家を持ち、子供を育ててこられたのも、全て木靴作りのおかげさ。今はもう寂れてしまって、お互い何とか助け合ってやっていくのがやっとだね。以前は香港やタイにも輸出されていたけれど、今では絵付けして国内の市場で売られるのがせいぜいさ。」と嘆く。
工房で働く女性職人たちは、自作の質素な木靴を履いている。彼女らの収入では、街中の店に並ぶきらびやかな靴を買うことはできない。しかし、そのシンプルさにこそ木靴の美があるとも言える。この木靴の伝統工芸を、これから先も目にすることはできるのだろうか。ますます市場が縮小されたら、職人たちはどこへ行ってしまうのだろうか。
同省には数多くの工業団地があり、普通に工場で働けば、木靴職人を続けるより仕事ももっと簡単で楽かもしれない。収入も上がるだろう。それでも職人たちは、この伝統工芸を守り続ける。一生をかけて追い続ける職業には、単に生計を立てるためだけではない場合もあるのだ。ベトナムの女性に古くから親しまれてきた木靴を履く人が減ってもなお、木靴作りは職人たちにとって自分の手に馴染んだ誇り高い職業であることに変わりはない。