その後、ベトナムに戻ったニャムさんは、家族に事情を話し、中国人夫の信頼を得なければハンさんを取り戻せない、そのためには末娘のフエンさんを嫁がせるしか方法はない、と説明した。フエンさんは最初は大きなショックを受けたが、姉を取り戻す最後の手段はこれしかないと納得した。親戚の多くは「下手すると娘2人を失うことになるぞ」と止めたが、ニャムさんの決心は固かった。とにかく中国人夫の信頼を得て娘を里帰りさせ、その間に娘を陥れたフオンを告発して裁判に勝ち、娘を2人とも連れ戻す、というのが彼の計画だった。
(C)Dan Tri, 中国に住むフエンさん(後方左)とその家族 |
末娘が中国に嫁いだ後、ニャムさんがハンさんと2人の子供の里帰りを提案すると、案の定、中国人の夫は快く同意した。ハンさんたちが帰郷するとすぐ、ニャムさんはハンさんを連れて警察署に行き、フオンを告発した。そして、2011年3月、フオンに対する裁判が行われ、懲役6年の判決が言い渡されたのである。
ハンさんを取り戻すという目的を果したニャンさん一家だったが、話はここで終わらなかった。なんと、娘を買い取った中国人夫が妻と2人の子どもを恋しがり、ベトナムに移住してきたのだ。かつては憎んでいた男だったが、かわいい孫の父親はこの男しかいない。ニャンさんや親戚たちは協力してニャムさん宅の向かいにハンさん家族の家を建ててやった。
中国人夫のトーさんに中国が恋しくないのか尋ねると、照れくさそうにこう答えた。「両親は既に亡くなっているし、中国に恋しく想う人はもう居ないんです。ベトナムに住んで家族みんなが幸せになれました。ここの暮らしに満足しています」。
ところで、中国に嫁いだ末娘のフエンさんはどうなったのか。「これについては想定外の結果になりました。フエンは中国人の夫と幸せに暮らしており、ベトナムに戻る気はないというんです」。ニャムさんの口ぶりからは、末娘の幸せそうな様子が見て取れた。娘を売り飛ばされるという苦しい経験をしたものの、ニャムさんの決断が家族を幸せに導いたのだ。