マクロ経済:国内総生産(GDP)成長率
ベトナム経済の成長を牽引してきたのは、1986年に開始されたドイモイ(刷新)政策を背景に、1990年代半ばから本格化した外国企業の受け入れと、都市部の民間企業の成長であったことは言うまでもない。1997年にアジア通貨危機があったものの、1995年以降、外国からの直接投資(FDI)が一貫して農水産加工業・軽工業の成長を牽引してきた。
1995年の東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟と米国との国交正常化の前後が第1次投資ブーム、2007年の世界貿易機構(WTO)加盟前後が第2次投資ブーム、さらに2010年前後の円高の急進、および尖閣諸島問題が顕在化しチャイナリスクが強く意識されるようになった頃からが第3次投資ブームと呼ばれる。ベトナムはWTO加盟後も国際経済への統合を意欲的に推進し、日越経済連携協定(VJEPA、2009年発効)や、ベトナム韓国自由貿易協定(VKFTA、2015年発効)、ユーラシア経済連合(EAEU)とベトナム間の自由貿易協定(VN-EAEU FTA、2016年発効)、米国抜きの新たな環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)である包括的および先進的な環太平洋パートナーシップ協定(TPP11=CPTPP、2019年発効)、ベトナムEU自由貿易協定(EVFTA、2020年発効)など、複数の二国間・多国間の貿易協定を締結しており、これらも外資誘致の原動力になっている。
農水産加工品や軽工業製品の輸出産業、輸出加工型産業の生産拡大と雇用促進により、GDPは1990年代からこれまでに増加の一途を辿っている。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により、2020年と2021年のGDP成長率はそれぞれ+2.91%、+2.58%と、それ以前からは大幅に減速したものの、ベトナム政府による新型コロナに対する早期かつ効果的な封じ込め政策や、経済振興策が功を奏し、プラス成長を維持したことは評価に値する。
新型コロナ収束後、内需と輸出の力強い回復により、2022年のGDP成長率は前年の+2.58%から+8.02%へと大幅に加速した。2023年のGDP成長率は+5.05%に減速したものの、引き続き高水準を維持し、2024年は+7.09%へと再び加速した。
2024年の名目GDP額は1京1512兆VND(約4700億USD)に達したと推定される(GSOデータ)。全国人口(約1億0130万人)に基づき計算された国民1人当たりのGDPは約4669USDとなる(為替レート:1USD=2万4341VND)。
前述のように、国民1人当たりのGDPは小さいわりに生活水準はそれほど低くない。2023年における国民1人当たりの購買力平価(PPP=ある国で一定の価格で買える商品を他国でいくらで購入できるかを示す交換レート)ベースのGDPは1万4974USDで、同年の国民1人当たりのGDP(4140USD)の3.6倍に相当する。この水準は東南アジア地域においてフィリピンを上回り、インドネシアを下回る位置にある。
ベトナム以外の東南アジア諸国の購買力平価ベースのGDPは、◇シンガポール:14万1553USD、◇ブルネイ:8万5268USD、◇マレーシア:3万6417USD、◇タイ:2万3465USD、◇インドネシア:1万5416USD、◇フィリピン:1万0989USD、◇ラオス:9292USD、◇カンボジア:7425USD、◇ミャンマー:5953USD、◇東ティモール:4804USD。なお、日本は5万0106USDだった(WBデータ)。
ベトナムは2023年、主要経済パートナーである米国と日本との関係を、2024年にはさらにオーストラリア、フランス、マレーシアとの関係をそれぞれ格上げし、包括的・戦略的パートナーシップを締結した。この締結により、長期的に相互支援し、相互利益となるあらゆる分野での広範かつ包括的な協力を推進し、戦略的な相互信頼を深めている。2025年1月までに、ベトナムと包括的・戦略的パートナーシップを結んだのは、◇中国(2008年)、◇ロシア(2012年)、◇インド(2016年)、◇韓国(2022年)、◇米国(2023年9月)、◇日本(2023年11月)、◇オーストラリア(2024年3月)、◇フランス(2024年10月)、◇マレーシア(2024年11月)の9か国となっている。