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グエン・タンさん(女性・45歳)はといえば、子供が夫婦のために部屋を借りてくれると申し出たものの、夫婦はハンモックカフェで寝泊まりすることを選んだ。タンさんはこう語る。「もう長いことここで寝泊まりしています。夫婦それぞれ1台ずつ、ハンモックを借りて。夫は市場で荷物の積み下ろしの仕事をしていますし、お金も十分にまかなえていますし、子供に迷惑をかけたくないので……」。
タンさんの所持金は最低限の生活をまかなえる程度なのだが、先のクックさんに身寄りがないことを知り、さらにクックさんが2か月前に事故に遭った上に騙されて所持金を全て失ったときには、タンさんが家族のようにクックさんの世話をしたという。
「ご近所さん」であるクックさんのハンモックを見つめながら、「クックさんはとても気の毒です。脚も悪いですし。マッサージをしてあげたり、洗濯をしてあげたり、脚や背中の痛み止めの薬を飲むように声をかけたりしているんです。それから、泣かないで、悲しまないで、とも」とタンさんは話す。
それを聞いてクックさんはこう語る。「ここの人たちはよく面倒を見てくれるんです。店主は食べ物と飲み物をくれて、服をくれたり、毛布をくれたりする人もいます。今履いている靴はタンさんがくれたんですよ。彼女が履いていたのに、私が歩きやすいように、とその場で脱いでくれたんです」。
クックさんの話をそばで聞いていたあるビジネスマンの客が、クックさんに一番の望みは何かとたずねた。するとクックさんは、ただ1つの望みは、起きたらまた売りに行かねばならない売れ残りの宝くじを誰かが買ってくれること、だと言った。
それを聞いたビジネスマンの客は、残っていた100枚近い宝くじを全て買い、さらにいくらかのお金をクックさんに渡した。クックさんは大喜びで、見知らぬ人の優しさに涙をこぼした。タンさんも一緒に喜びつつ、「続きはまた明日」と言ってクックさんに身体のために少し眠るよう促した。
世が更けたホーチミン市の街は肌寒い。太陽の光を浴びて真っ黒に日焼けした労働者はハンモックの中で眠りに落ちる。明るい未来の夢を見ながら……。