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灼熱のハノイ市の昼時、ホアンキエム区ハンバック(Hang Bac)通りの路地に住むグエン・フン・ハイさん(80歳)と妻のグエン・ティ・サムさん(70歳)が昼食の支度をする室内には、共同便所のアンモニア臭が満ちている。この路地には6世帯が暮らすが、ハイさん夫妻は26歳の娘と路地の共同便所の真上に住んでいる。
モルタル造りの共同便所の上で、トタン板や段ボールを屋根や壁として使い、家にしている。面積は8m2、外付けの階段で家まで上り下りする。床に縦1m、横1.5mの薄い合板とゴザを敷いたところが寝床だ。雨の日は家の中に流れ込んでくる雨水をホウキで外へ掃き出す。大雨の時は床上(公衆便所の屋根上にあたる部分)が20cmも浸水したことすらある。夜通し雨水を掃き続けることもあるという。
1975年に家族の元を離れたハイさんは、この路地の共同便所の上が住処にちょうどいいと思い、木材や紙材を使ってバラック小屋を作り移り住んだ。その当時の家の面積は3m2だったが、1989年に人の仲介でサムさんと結婚すると、現在の広さに拡張した。ハイさん49歳、サムさん39歳のことだった。
サムさんは結婚式当日に初めてハイさんの家が共同便所の真上だと知り驚愕、初夜はどうしても我慢できず、他人の家に身を寄せた。しかし、どんなに貧しくても夫は夫だと思い直し、翌日から同居を始めたという。サムさんも娘や息子も、一度として友人や知人を家に招いたことはない。
真夏は室内が高温に蒸され鼻をつく悪臭が充満する。ハイさん夫妻は少しでも臭いを軽減するために交代でこまめに共同便所を一掃し、壁に水をまき涼を取る。
ハイさん夫妻の収入源は独立した息子の仕送りとハイさんが路上で営むバイクの空気入れで稼ぐ小銭だけだ。サムさんは屋台を切り盛りしていたが関節痛が酷くなり、4年前に店を畳んだ。息子がローンを組んでマンションを買って夫妻を呼び寄せようとしている話もあるが、「それも確約はないし、子供や孫の迷惑にもなりたくない」と話す。
現在の家は違法建設ではあるが、起訴されることは心配していないと言うハイさん。「こんな共同便所の上に住んでいる人を訴えようとする人なんていますか?」と笑う。