皆さん、こんにちは。 廣済堂HRベトナム の堀岡(ほりおか)です。
コラム[ロジ・ポジ]では、ベトナムで暮らす日本人と日本が好きなベトナム人が、少しでも気持ち良い生活を送ってもらえるように、ベトナムをロジカル(ちょっと辛口)に分析し、ポジティブに解説しています。
第2回は日本人が陥りやすい ベトナムマジック についてです。
日本人がベトナムに来たら思うこと
ベトナムが初めての海外という人も、何ヶ国か滞在した後の人でも、 ベトナムって日本に似ているなぁ と思いますよね?
外見が似ている → 目鼻立ち、ファッション、体格 |
食生活が似ている → 食器、食材、調理方法、調味料 |
家族観が似ている → 親を敬い、家族を大切にする |
宗教観が似ている → 基本は仏教系。クリスマスなど他宗教のイベントも祝う |
上下関係が似ている → 年上に対する言葉遣い |
仏教系が多いが、他宗教のイベントも祝う
その上、親日国で、日本語が溢れ、夜中に歩いても安全となると、感覚的には70%以上似ていると言って良いかも知れません。
前回 解説したとおり、日本人は常に行間を読み、1・3・5を聞いたら10まで理解するのが当然という奇妙な社会で生活します。そこで養われるのが、50%を理解すると残り50%を自動的に補完する能力です。しかし、ベトナムのあれこれが70%も日本に似ていると、その 優れた補完能力が裏目に出て しまい、「残り30%も日本と同じだろう」と誤解するのです。これが、いわゆる「ベトナムマジック」です。
実際の生活ではどうなる?
例えば、夜中に一人で歩いても大丈夫という体験を重ねると、ベトナムは 日本並みの治安だ と錯覚し、当初あったはずの警戒心が低下していきます。つい路上で、かかって来た電話に出てスマホを盗まれたり、ほろ酔い気分で歩いていてひったくりに遭ったりと、治安の良さが日本に似ているからこそ起きる現象は、まさにマジックのようです。
ベトナムの夜は安全?
テト(旧正月)の直前、当社ホーチミンオフィスの社員がひったくりに遭いました。金曜の夜、日本食レストランで飲食した後、タクシーに乗る際、後ろから来た二人乗りのバイクに、車道側に持っていた手提げ鞄を盗られたそうです。彼は身長185?、体重100kgの巨漢で、しかも香港に8年、カンボジアに2年、ベトナムに1年と海外生活には慣れているはずなのに、です。こんな、絵にかいたように典型的なひったくり被害に遭うほど 日本人は油断してしまうことがある と認識する必要があります。
そこで、折角なのでベトナムの治安について考察してみたいと思います。
そもそもベトナムの治安はどうなのか?
日本に一時帰国するとよく聞かれる質問がこれです。
皆さんはどのように答えていますか?
質問の意図を大きく3つに分類すると、回答パターンは以下の通りとなります。
パターン1 |
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質問者:ベトナムに行くことはなくても、相手を心配して聞いてみた(親兄弟など) |
回答例:「街中でも、とても治安がいいよ」(心配させないようにしたい) |
パターン2 |
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質問者:話題がないのでとりあえず聞いてみた 「ベトナムの天気はどう?」に続くことが多い(本社の元同僚など) |
回答例:「あまり良くないね。繁華街ではひったくりが多いし」 (異国で頑張っていることをちょっとアピール) |
パターン3 |
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質問者:ベトナムに行く可能性があり、事前情報として聞いてみた(友人など) |
回答例:一番困るケース(良いと答えて勘違いされても困る) |
ベトナムの治安の前に、日本と欧米の犯罪発生率を比較してみると、恐ろしい数字が出てきます。
[窃盗]→ ドイツは日本の4.7倍、アメリカは5.4倍多い。
[強盗]→ ドイツは日本の23.5倍、アメリカは42.1倍多い。
[殺人]→ ドイツは日本の3.0倍、アメリカは14.7倍多い。
※平成29年版犯罪白書(法務省調べ)参照
では、ベトナムはどうでしょうか。
外務省が発表している 2016年のベトナムでの犯罪発生件数は5万4511件 です。
これに対し、 日本では同年で99万6120件 と、ベトナムの18倍犯罪が発生していることになります。
※平成29年版犯罪白書(法務省調べ)参照
しかし、どう考えてもこの数値はベトナムの実態を表していると思えません。実際、窃盗被害に遭った当社社員は警察署で、「被害届ではなく紛失届にしたほうが早く処理できる」とアドバイスを受けたそうです。当然、紛失届になると犯罪ではなくなってしまいます。どうやら、 公表データでベトナムの治安を分析することは難しい ようです。
ベトナムの治安は相対的に「安全」
筆者自身は、「ベトナムの治安はどう?」(上述パターン3)と訊かれた場合は、次のように答えることにしています。
ひったくりに遭った当社社員は、「10年以上外国に住んでいるのに油断してしまった」とショックを隠せない様子でした。犯罪を許せないのは当然として、被害に遭う確率を下げる努力はできても、完全に防ぐことは無理です。大使館や領事館から注意喚起が出るほど頻発しており、ひったくり犯は確実に近くにいます。それに、アルコールが入った状態では注意力が低下し、警戒心をフルに発揮できません。
重要なのは、「ひったくられないための対策」にプラスして「ひったくられた時の対策」を講じておくことです。
例えば、次のようなものです。
?お金で買えないような「記念の品」は持ち歩かない
?パソコンのデータ流出防止のためHDD(ハードディスクドライブ)自体にパスワードをかける
?鞄の中に何が入っているか、常に確認しておく
宴会に突然誘われ、どうしてもパソコンを持っていかねばならない事情がいつ起きるとも限りません。そして、不幸にしてひったくりに遭ってしまったら、品物は追わず生命の安全を第一に考えて行動するのみです。
日本だけでも毎年100万件の犯罪が起きており、外国で被害に遭う確率は更に高くなります。「10年間海外にいて何もなかったのに油断した」とネガティブに思うよりも、「 10年に1度くらいは降りかかる災難の中で、生命に危険が及ばなかったことは超ラッキーだった 」とポジティブに捉えるべきで、そのほうが精神的ストレスから早く解放されます。しかも、盗られたパソコンは全額保険でカバーされ、金銭的な被害も最小限で済んだということでした。
まとめ
日本人は、70%も似ているベトナムで生活すると、思いがけず油断してしまう「ベトナムマジック」に陥ります。これは、ひったくりなどの犯罪被害だけに言えることではありません。職場では、真面目なベトナム人の働きぶりを「会社への忠誠心」と誤解し、テト(旧正月)前後に幹部職員が退職することで日本人経営層が精神的ダメージを受けることもあります。
「ベトナムマジック」で日本人がストレスを溜めないために、
?ベトナムは日本に似ていても30%くらいはハッキリ違うと意識 |
?最悪のケースを想定したら何が起きるのか冷静に考察 |
?「被害を起こさない対策」だけでなく「被害が起きた時の対策」も準備 |
することが重要です。ベトナムマジックは少しの油断で誰にでも起こります。
ロジカルに分析し超ポジティブに生きる[ロジ・ポジ]。
次回もご期待ください。