少数民族と行動をいつも共にする時、時には困ることもあります。
それは、少数民族自体が私にとってそれほど珍しいものだと感じなくなることです。
それはごく自然のことで、アラスカの住民にとって、オーロラなんて雨や雪と同様のただの気象現象に過ぎないことと一緒かもしれません。
もちろん、少数民族が作った刺繍作品はとても美しいもので、それ自体を否定するつもりはありません。
それはモネの 積みわら シリーズの絵をず~っと見ているように、多少の感覚「麻痺」はあるものの、一つ一つの絵が絶妙な色彩の変化で光を捉えていて全体的にすごく調和しています。
その美しさ自体を否定する人はいないでしょう。
それでも私はただの人間ですから、時には欲張りたくもなります。
少数民族の人自身にとって貴重で美しいものとは何かをどうしても探したくなる時です。
今回は、 モン族 に何か新しい商品を作ってくれないかと古巣の CSIP(Center for social initiative program) の依頼で ラオカイ省 に行きました。
これまでもモン族と接触する機会が多く、彼女たちにどういう伝統工芸品があって、それらがどのような生産過程かも知っていましたが、せっかくお声掛けを頂いたので、ディレクターのオアインさんに付いて行きました。
モン族の麻の作り方
彼女たちの麻の作り方を改めて簡単にご紹介します。
▼ステップ1
ヘンプ(hemp=アサ科の大麻草)の茎を乾燥し、一本の長い糸に繋いでいきます。
糸はまだサパ面に広がる棚田の稲穂のような金色
▼ステップ2
紡いだ糸を鍋で何回も煮込みます。
その時、もともと硬かった茎も柔らかくなり、金色もだんだん落ちていきます。
色味が変わってきます
▼ステップ3
板の上に乗り、足で板を転がしなから、洗った麻を丈夫にしていきます。
私が体験中
▼ステップ4
織機にかけて、完成!
昔ながらの織機です
簡単そうに見えますが、実は2~3ヶ月かかるプロセスで、大変力がいる仕事です。
モン族は、全て天然素材、手作業で麻を作っています。
興味がある方は 是非ご連絡ください 。
本当に輝いていたモノ
今回の視察で私が注目したのは、普段売られていない彼女たちが身に着けている銀のイヤリングや髪飾りです。
ザオ族の女性が結婚する時に送られる幸せのイヤリング
実はこちら、フランス統治時代に流通されたコインを溶かして作られています。
よく見ると細かいところまでとても手が込んでいます。
リングの中に葉っぱの形がありますが、爽やかなマット色、柔らかい曲線で葉っぱの輪郭を見事に表現。
さらに、小さい銀のボールを装飾することで葉水が転がっているような瑞々しい葉を連想させてくれます。
サイズもまさに今流行中の大ぶりイヤリングと同じで、大人ビンテージ感を演出。
しかし、とても残念なことに、このイヤリングを作れる職人はもういません。
これは私たちがサポートしているチャンさんが、孫の結婚用にと大事に取っておいた最後のイヤリングです。
貴重な銀を使っているため、少数民族にとってイヤリングはただの飾りではなく娘の幸せを願い、彼女に送る一生に一度の宝物なのです。
意味があるから価値がある、気持ちを込めたものはやはり何かの「美」を秘めている。
このイヤリングを見てそう感じました。
そして、こちらはモン族がよく着けているリング型イヤリングです。
モン族のイヤリング
月のようなしなやかなカーブで先端が木の模様をしていて、ポストの部分にかけて徐々に細くなっていく。
四方に伸びる子房と花柱 、そして6枚の花びら、一つの花を2つに分けて描くのもモン族独特の作りでしょう。
作る道具を見せてくれました
こんな自然の要素をたっぷり入れたエキゾチックなイヤリングですが、実はほとんどは男性の職人によって作られています。
女性みんなができる刺繍とは違って、アクセサリーを作る技術は元々数少ない職人にしかできません。
また、それを継ぎたいと思う若者も少ないため、銀のアクセサリー職人は年々減っていて、技術の伝承が途絶えた村もあります。
元々銀のアクセサリーはモン族にとってとても大事なもので、裕福さを象徴するのと同時に魂を守るためにも使われています。
しかし、その伝統もあと数年で見れなくなるかもしれません。
少数民族の伝統工芸品という話題になると、女性たちが作る刺繍などにどうしても注目がいきがちです。
ですが私たちに見えないところで実は様々な文化が失われつつあるのです。
皆様も是非サパにいらっしゃる際は刺繍や青染めだけではなく、何か輝くものを見つけてみてください。
次回は ライチャウ省 に生まれ育った花モン族の若者の激白インタビューをご紹介したいと思います。