アインさんはあまり家におらず、夜に帰宅すると軽く掃除をしてから椅子に横になり、22時に息子が仕事を終えて帰宅するのを待つ。アインさんの息子は31歳で、幼いころから知的障がいがあり、現在はハンボン通りのビルの夜間警備員として働いている。月収は250万VND(約1万5000円)だ。
(C) dantri |
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夜、アインさん親子はそれぞれの場所に横になり、断続的に眠る。アインさんによれば、自動車のクラクションの音や遅くに帰宅した誰かの足音、ドアの開け閉めの音、共同便所の水が流れる音などによって、旧市街の夜の静けさは時折破られる。
こうした不協和音のせいで、眠りの途中で目が覚めてしまう。各部屋は近接しているため、誰が何をしているのかもわかってしまう。アインさんは、足音を聞くだけでそれが誰の足音なのか、そして今が何時なのかまで推測できる。
アインさん親子は長いことまともな睡眠がとれていない。さらに部屋は日々老朽化が進み、家としての基本的な水準を下回っている。ある夜は、眠りについたところで大きな音が聞こえ、アインさんはびっくりして飛び起き、息子を抱きしめた。いつ家が倒壊し、母子ともに自分の家に埋もれてしまってもおかしくないのだ。そんな不安がよぎらない日などない。
「雨の夜は一晩中眠れません。屋根から雨漏りし、雨水が壁にしみてロフトの2階と3階に水たまりができるんです。息子と一緒に雨避けのシートを張って、タオルや古着を床に広げて水を吸い取ります。雨水を受けるたらいを置いてもすぐにいっぱいになってしまうので、こまめに水を捨てに行かなければなりません。こんな生活にうんざりして、何度も泣きました」とアインさんは話す。
午前3時ごろ、隣の部屋から水の入ったバケツの蓋を開ける音、水を汲む音、そして隣人の「起きて水のポンプの元栓を開けて」という会話が聞こえると、アインさんと息子も目を覚ましてしまい、2人の新しい1日が始まる。
この集合住宅では水が不足しがちで、旧市街に住んでいるにもかかわらず、水不足の程度は高地に住んでいるのと大して変わらない。午前3時というと浄水場がポンプを稼働し始める時間だが、ハンボン集合住宅の最上階まで水が流れるには時間がかかるため、最上階の住民はポンプの稼働と同時に起床する。1000Lのタンクを満たすには、数時間かかるのだ。
タンクに水がいっぱいになると、アインさんは蛇口を閉めて、息子が仕事に出かけられるよう支度にとりかかる。「なんとか横になって寝ようとするんですが、5時には他の住人が起きてしまいますし、色々な音がしてうるさいので、なかなかそうもいかないんです」とアインさんはため息をつく。10年以上ここに住んでいるが、アインさんは毎日、長い長い夜を過ごしている。