乗り始めは怖くて時速20kmしか出せなかった。停車するときには、腰をシートにぐっと押し付けて、素早くスタンドを立てる。そうこうして運転に慣れてくると、一生を両親に頼って生きていくわけにもいかないと、何か仕事をすることを考えるようになった。
(C) vnexpress |
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2019年のある日の午後、クオックさんは、友人から配達の仕事を紹介される。片足の若者が、配達の仕事をしたいと応募してきたものだから、その会社の女性経営者は驚いたが、試しに3日間仕事をさせてくれた。
忘れられない最初の届け物は、南中部沿岸地方フーイエン省トゥイホア市のチェー(ベトナム風ぜんざい)だ。
店に入るや、全ての視線が彼に注がれた。心の準備はしていたつもりだったが、心臓は高鳴り、顔は真っ赤になった。品物の受け取りに来たそんな青年を見て女店主は、椅子を引き寄せて、話を聞いた。
「片足で配達する彼。配達するものがあったら、彼を呼んでね」。
いつの間にか撮られていた写真に、そんな言葉が添えられてSNSに上がっていることをクオックさんが知ったのは、初日の仕事を終えて、帰宅した夜のことだった。
五体満足でないなら、他人の2倍、いや3倍頑張るしかない。彼は自分に言い聞かせ、1日50件、1日50万VND(約3000円)以上稼ぐことを目標に決めた。