生まれつき両脚がなく、右腕の手首から先もなく、実の父親からも捨てられたロイさんは、誰のことも好きにならず、誰とも結婚しないと決めていた。しかし、2年前の運命的な出会いがすべてを覆した。
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ホーチミン市トゥードゥック区ヒエップビンフオック街区の静かな路地にある小さな店には、ファン・ティ・トゥオン・ギアさん(女性・27歳)が手作りしたブローチや、アオザイが並んでいる。
ギアさんの夫、グエン・ホン・ロイさん(男性・33歳)は、テーブルに白いアオザイを広げる。夫婦は椅子に座り、筆を手にする。2人の1日は、布を飾る花の絵を完成させることから始まる。
ギアさんは手作りのアオザイコレクションの若手デザイナーとして知られている。一方のロイさんは障がい者水泳の世界で有名で、数々の大会でメダルを獲得してきた。
ロイさんは大会に向けたトレーニングに加えて、ギアさんがアオザイやドレス、バッグにデザインを描く仕事や、店の仕事も手伝っている。2人はロイさんの三輪バイクで配達にも一緒に出掛ける。
ロイさんは生まれつき両脚がなく、右腕の手首から先もなく、左腕だけが自由に使える。幼いころからホーチミン市のツーズー病院平和村で生活していた。
そんな2人は、2020年10月に結婚式を挙げ、正式に夫婦となった。
2年前、ギアさんはスカーフ素材に手刺繍を施した自身の初めてのアオザイコレクションの展示会でホンさんと出会った。最初はゲストの中にハンサムな、しかし席についたままの男性がいるのをちらりと見ただけだった。展示会が終わりに近づいたとき、ギアさんはその男性が半分の長さしかない両脚で歩いているのを目にし、印象に残った。
約1か月後、ギアさんはフェイスブック(Facebook)でたまたまロイさんの個人ページを見つけ、友達リクエストを送信した。インターネット上でのやりとりを経て、2人は会ってコーヒーを飲みに行くことにした。初めての「デート」では、ギアさんがトゥードゥック区からロイさんのいる1区のツーズー病院平和村まで自らバイクを運転して迎えに行った。
「その日は、ホーチミン市内の道路の8km近い道のりを、初めて1度も赤信号にひっかかることなく走ることができたんです。そのとき私は、このデートはとても特別なものになると感じました」とギアさんは回想する。