ホーチミン市1区のマイティルウ(Mai Thi Luu)通りとグエンバントゥー(Nguyen Van Thu)通りの角地に、1987年に開店したチェー(Che、ベトナム風ぜんざい)の店がある。シンプルな路上店だが、30年間にわたり変わらぬ味のチェーを売り続けており、いつも客でいっぱいだ。
(C) thanhnien |
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「バークットさん(ong Ba cut)」のニックネームで知られる店主のボー・バン・テーさん(男性・69歳)は、40年以上も前に右腕を失い、残った左腕だけを動かして生きてきた。片腕を失ったのは、若い頃に遭った労働災害事故のためだという。しかし、片腕を失ったからといってテーさんが仕事を辞めることはなかった。
テーさんは毎日朝早くから緑豆や黒豆などを使った様々な種類のチェーを片腕だけで調理し、11時になると1区チャンクアンカイ(Tran Quang Khai)通りにある自宅から慣れ親しんだ店の場所まで車を押して行き、忙しくも楽しい1日の仕事を始める。
黒豆や緑豆をピューレ状にして砂糖と氷を混ぜただけのテーさんのチェーには、幼い頃に食べたチェーを思い出させてくれる懐かしさがある。テーさんは、「私には何のノウハウもありませんよ。実際のところ、以前は姉がチェーを売るのを手伝っていたのですが、姉が亡くなってから私1人で店を営んでいるんです」と話す。
テーさんは、仕事の上で苦労が多いかと尋ねられると、「ないといえば嘘になりますが、もうすっかり慣れましたよ。店主としての仕事も難しいことはありませんし。ただ片腕というのが不便なだけです。客が多い時は、近くにいる人が手伝ってくれるので安心です」と笑顔で語る。