ホーチミン市6区ファムバンチー通り358番地の路地に、30年の歴史を持ち、知る人ぞ知るバインカインクア(カニ風味のスープのタピオカ麺)の露店がある。狭い路地の入り口に構えた露店に看板はなく、机や椅子が数脚ある程度だが、バインカインクアは1杯25万~30万VND(約1230~1470円)もする。しかし、一度食べればその美味しさの虜になること間違いなしだ。
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店を商うのはグエン・ティ・ロアンさん(57歳)と夫のフイン・バン・シーさん(62歳)だ。ロアンさんは困窮した暮らしの中で3人の子供を養うために、27歳の時からフーティエウ(南部を代表する米麺)やバインミー(ベトナム風サンドイッチ)、ネムヌオン(焼き肉団子)、ブンボー(牛肉入りスープの米麺)などあらゆる食べ物を売ってきた。
しかし、複数のメニューを調理するには材料の仕入れの問題もあり不安定だと考えたロアンさんは、「あの料理と言えばロアン」と誰もが思えるような一品に絞ろうとバインカインクアの専門店にすることに決めた。
ロアンさん夫妻は暮らしがどんなに苦しくても3人の子供たちには十分な教育を与えようと店を切り盛りした。成人した子供たちは高齢になった両親を養うから店をたたむようにと説得を試みたが、ロアンさん夫妻は頑なに断った。
「もう30年も店をやっていますから、休めと言われたって慣れないし、お客さんだってうちのバインカインクアが食べたいって言うんですから、辞めるわけにはいかないでしょう」とシーさん。
ロアンさんはカニに豚足、魚などバインカインクアの材料を贔屓先から仕入れている。品物は必ず生で仕入れて自ら加工し、決して冷凍ものや既製品は買わない。
バインカインクア1杯25万~30万VNDと言えば高級料理店での価格に相当し、路地の露店にしてはあまりに高すぎるという声が出ることもあるそうだ。しかし、実際には1杯2万5000VND(約123円)から注文が可能で、客の要望に応じて具材を追加して見た目も価格も豪華な1杯を提供することもある。1杯25万VNDのバインカインクアには、大きなカニの爪が4~5個に豚足1片、魚の練りもの2個、エビ2匹、豚血2片、エビのすり身団子が入る。
「確かに値段は少し高めですが、店は清潔で食材も新鮮でとても美味しいので何度も来ています」と常連客からの評価も高い。店の評判を聞きつけて遠く12区やトゥードゥック区、果ては東南部地方ビンズオン省から足を運ぶ客もいるほどの名店だ。