ホーチミン市1区のマックディンチ通りに、御歳90歳の店主が営むフォー屋「カオバン(Cao Van)」がある。ハノイ出身の店主チャン・バン・フォンさんは、僅か6歳の頃からフォーを売り始めた。
(C) vnexpress, カオバンのフォー |
(C) vnexpress, カオバン店主フォンさん |
カオバンは、質素な店にもかかわらずフォー1杯が4万VND(約220円)からと比較的高い。他のフォー屋が遅くとも朝5時には仕込みを始めるのに、カオバンは8時になってようやく開店準備にとりかかるのだが、開店と同時に常連客がひっきりなしに訪れる。ホーチミン市でハノイの伝統的な味を守り続けて60年、こんな店は他にないからだ。
紅河デルタ地方ハナム省の貧しい家に生まれたフォンさんは、6歳の頃から兄についてハノイ市へ出て、フォーを売り始めた。それが1930年頃のこと。「金がなくて、いつもすきっ腹を抱えてたよ」とフォンさん。当時は麺の上に肉と調味料を載せた丼を客に渡して、客が自分でスープをよそうスタイルだったそうだ。
毎日朝から晩まで売り続けても、儲けはごく僅か。ベトナムが独立を宣言した1945年、フォンさんはサイゴンから戻ってきた友人から「南部のほうが稼げる」という話を聞く。貧困から逃れるため、1947年に意を決して南へと下った。