ドイツ人女性ベッティーナは、10年前に自然保護プロジェクトに参加するためベトナムへ来た。北部トゥエンクアン省ナハン郡に生息し絶滅の危機に瀕しているラングール(オナガザル科)を保護するプロジェクトだった。土地の人たちは初め、突然金髪の女性がこんな山奥にやってきたのを見て不思議がった。しかし次第に彼女が自分たちの地域の森や動物を保護するために来たことや、自分たちがその自然破壊に加担してしまっていることを知るようになる。
過酷な生活環境の上に言葉も通じない中、彼女は独学でベトナム語を習得し森を守る運動を住民たちに伝えていった。そうするうちに彼女は次第に住民たちに受け入れられるようになり、特に森林管理局の職員たちからは家族のように慕われた。行く先々で彼女は森林と野生動物の保護を訴えた。
彼女のことはハノイ近郊の避暑地タムダオ国立公園でも知られている。道端の物売りたちは「今では野生動物を売る人は誰もいない。ベッティーナが悲しむからね」と言う。彼女の努力が住民たちの自然環境に対する考え方を変えたのだ。
パートナーであるトゥアン・アインは2003年のベトナム美術賞を獲得した画家で、よき夫として彼女を支えてきた。「ベッティーナはいつも仕事に夢中で、真っすぐな女性」と彼は語る。またその真っすぐさが、二人を結びつけることになったという。
「トゥアン・アインと会う前から彼の絵が大好きだったの。1999年にハノイを訪れる機会があって、友人を通じて彼と会った。その時彼は環境衛生に関するプロジェクトのための絵を描いていて、私はナハンでのプロジェクトのために絵を描いてほしいと頼んだの」。それがきっかけで2人は友人として付き合いだし、やがて愛が芽生える。ほどなくして2人が結婚するころには、ベッティーナのベトナム語はすっかり流ちょうになっていた。「これからも夫と共にベトナムで暮らしていくつもりよ。ここでは人があまり孤独感を感じずにすむような気がするの」。
旧正月(テト)の時期などは2人でトゥアン・アインの実家に里帰りする。ベッティーナも彼の母親を手伝いテトの準備をする。「心はすでにベトナム人かもしれないわね」。彼女は二胡(胡弓)を取り出して弾いてみせ、もっとベトナムについて理解したいと笑った。