ハノイ市タインスアン区クオンマイ街区(phuong Khuong Mai)は、一見すると何の変哲もないごく普通の街角だが、犯罪者にとっては“魔の区画”となっている。ここで市民の金品に手を出そうものなら“鬼の自警団”にすぐ捕まってしまうためだ。
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この街区で「自警団」が発足したのは17年前の2003年のこと。現在の団員は57~62歳の男性5人。いずれも退役軍人で、腕に覚えがある猛者ばかりだ。この5人がローテーションで、警察官とともにパトロールしている。
団長のグエン・バン・フンさん(62歳)はこれまでに、団員と共に強盗や窃盗、麻薬売買など300件以上の犯罪を摘発した実績を残している。フン団長について、同街区警察のトップであるホアン・マイン・タン中佐は「犯罪の臭いを嗅ぎ取る嗅覚は現職の警察官も顔負けだ」と絶賛した。
「これまでに誤認逮捕は一度もない。バイクを盗もうと考える輩は、必ず何度か標的の周辺を回って物色する。麻薬の売人は気配を隠すのが上手いが、注意深く観察すれば見破ることは決して難しくない」と語るフン団長。
犯罪摘発に貢献しても、手当や補助金が支給されるわけではない。フン団長は「軍人としてやるべきことだ。どうせ退役しているから、時間もたっぷりある。市民の生活を守れるなら、それで十分だ」と話す。しかし、団員は既に高齢。若者が新たに加わってくれないと、自警団の存続は難しいと危惧している。
自分を犠牲にして地域の安全を守る自警団の仕事はまさに命懸けだ。過去には、犯罪者との格闘で負傷し「お前はHIVに感染した。じきに死ぬぞ」と脅されたことがあり、これまで2度にわたって、抗HIV薬投与の治療を受けたことがある。
「適切な治療をすれば麻薬中毒は治るが、私の中の犯罪を憎む情熱は衰えることはない」。このように語るフン団長は、犯罪が増えるテト(旧正月)の大晦日にも例年通り出動するつもりだ。「私の目が黒いうちは、この地区で犯罪者がのさばることは許さない。それでもやろうという輩は、首を洗って待っていろ」。