(C) Lao dong, Ky Quan 写真の拡大 |
フランスの作家マルグリット・デュラスの自伝的小説を原作にして1992年に製作された映画「愛人/ラマン」で撮影に使われた古民家が、メコンデルタ地方カントー市ビントゥイ郡にある。1870年に建設されたこの家は今もかつての姿を失わずにいる。東洋と西洋の要素を取り入れた建築様式で、フランス製のれんがと中国・雲南省製のテーブルセットも昔のままだ。2009年には国の文化歴史遺産に認定された。
記者が2時間ほど滞在している間に、20人を超える外国人観光客が訪れ、映画「ラマン」の面影を探るように家のあちこちに立ち止まっては目を凝らしていた。フランスから夫と共に訪れたジュリア・サンデルさんは、「映画好きの人なら誰でもここに来て「ラマン」を感じることができるでしょう」と語った。ただ、カントー市はこのせっかくの歴史の贈り物を有効に活用していないという。「フランスだったら、歴史上の有名人が立ち寄った場所というだけで、観光地として売り出せる」とサンデルさん。
実際ビントゥイのこの古民家では、観光サービスと呼べるような活動は一切行われてない。この家の主はカントー観光社と共に、17~18世紀ごろの食事を観光客に提供するサービスを始めようと申請中だが、まだ許可が出ていない。収入がないため小規模の修理しか行えず、大がかりな修理が必要な場合は国に頼むしかないという。
一方、古民家を有効に活用している地方もある。メコンデルタ地方ティエンザン省カイベー郡ドンホアヒエップ村では、1838年建設の古民家が解体直前に「救出」され、今では観光客の人気スポットになっている。家主のチャン・トゥアン・キエットさんによると、2002年に独立行政法人国際協力機構(JICA)から家屋の研究をしたいとの申し出があり、その翌年18億ドン(約720万円)をかけて家を修理してくれたという。JICAはさらに国連教育科学文化機関(ユネスコ)の「アジア太平洋遺産賞」申請書類まで用意してくれた。
メコンデルタ地方バクリエウ省では、以前から古民家が観光資源として利用され、その収益が修理・維持費用に充てられている。この家には3万5000ドン(約140円)で宿泊することもでき、100年前の時代の雰囲気を肌で感じることができる。ただし、これは公営だから可能なことで、一般人が家主の場合は難しいという。ほとんどの家主はかつて祖先が裕福であったにせよ、今は裕福とは言えない境遇で、古民家を補修・維持する余力がないからだ。
国際機関に呼び掛けて古民家を修理し、その後観光資源として利用しながら維持する方法のほかに、古民家を守る手立てはあるのだろうか。そんな中、観光資源になることを当て込んで、古民家を偽装した家が既に出現しているという。