台湾にはおよそ8万人もの若い外国人花嫁がいて、そのほとんどがベトナム出身だ。その境遇は様々で、中には故郷で農業をやっているよりもずっと高収入で暮らす女性や、もともと能力があり、夫婦間で主導権を握って夫を尻に敷く女性もいる。ガーはその数少ない女性の一人だ。
西洋的なルックスからみて都会育ちだろうとの私たちの推測は間違っていなかった。ホーチミン市タンビン区出身の彼女は7年前台湾男性と結婚し、今は桃園県中レキ市に住んでいる。彼女の夫がベトナムを訪れたのは投資が目的で、現在ビンズオン省にある工場を経営している。われわれがインタビューした日、彼女は数十億ドン(数千万円)の家をもうじき手に入れると話した。
桃園はベトナム人花嫁とベトナム人労働者がもっとも多い地域だ。彼女は私たちを案内し、ベトナム人妻たちが経営するカフェやフォー屋、ベトナム語の歌があるカラオケなどを教えてくれた。夫の会社を手伝う中で彼女はたくさんの経験を積んだという。今彼女は自らシルバー人材業の会社を経営している。ホーチミンの経済大学卒の学歴を持つ彼女は、夫について台湾に渡った時、自分の進む道は自ら切り開いていくべきだと思ったという。彼女は忙しい中でも中国語を学習し、大学の経営学コースでも勉強している。経営者としての経験は浅いにもかかわらず、彼女は既にかなりの信頼を得ていて、2005年には300人もの中高年失業者に職を斡旋している。
一方、メコンデルタ地方出身のウェンは農業を営む貧しい家庭に生まれ育ち、18歳で仲介者を通して結婚した。台湾に渡って9年になるが、彼女は家族の幸せが何たるかをまだ味わっていない。かなり年の離れた彼女の夫は風俗関係の仕事をしていて、ばくちや遊びに明け暮れている。時に暴力を振るうこともあり、彼女はじっと耐えているのだという。ある時、彼女は市場で若く好感の持てるベトナム人労働者と出会い、2人はすぐに恋に落ちた。彼女は愛し愛されることにとても幸せを感じ、その感情は夫から受けるむごい仕打ちを忘れさせてくれた。またその時から、彼女は夫にうそをついて恋人と会うことばかりを考えるようになったという。彼女はこう打ち明けた。「もしもう一度やり直せるなら同じ道は選ばない。でももう遅いわ。運命に従うしかない。」