ベトナムニュース総合情報サイトVIETJO [ベトジョー]
 ようこそ ゲスト様 

【第9回】緊急医療搬送 ~生命維持装置~

2018/05/09 08:05 JST配信

ファミリーメディカルプラクティスの創設者でありCEO(最高経営責任者)のラフィ・コット医師は、20代のころからドクターヘリのパイロットとして活躍をしてきました。医学部卒業後は、医師として緊急医療搬送に携わっており、現在はベトナム航空の専属メディカルダイレクターも務めています。

体外循環回路治療 ~ECMO

緊急医療搬送は非常に難易度が高いものですが、その中でも 人工肺とポンプを用いた体外循環回路治療(ECMO) 装置 を用いての搬送ほど複雑なものはないと言われています。

ECMO装置とは、心臓と肺の機能が十分でない患者の体内から静脈血(酸素化されていない血液)を取り出し、人工肺で酸素化した(二酸化炭素を除去した)血液を体内へ戻す 生命維持装置 です。患者の心臓と肺を一旦体内で切り離し、ECMO装置が代わりに血液循環・血液の酸素化を行い、生命を維持するのです。

ECMOを用いた海外搬送では、搬送中に患者の心臓を体内にて一旦切り離します。生体工学専門家、看護師、医師など12~14人の医療スタッフが搬送チームに携わります。搬送中は、飛行機内のエンジン音があるため、スタッフ全員が常に目視で患者の容態を確認します。

はじめてのECMO搬送

ファミリーメディカルプラクティスで初めてECMO搬送を行ったのは、ホーチミン市タンソンニャット国際空港で倒れたロシア人患者のケースでした。この患者はすぐに市内の心臓専門病院に運ばれましたが、海外の専門病院での治療が必要と判断されました。しかし当時、ベトナムを含む近隣地域では、ECMO搬送ができる病院がありませんでした。

患者の父親とラフィ医師が面談をし、その危険な状況と、ファミリーメディカルプラクティスでも海外搬送の経験がない、とてもリスクが高いケースであることを説明しました。そして、父親はラフィ医師にこう言いました。「わたしのたった一人の娘をどうか助けて欲しい。あなたたちにとってはリスクが高いだろうけれども、わたしはそのリスクの中にあるチャンスに賭けたいのです。」他に選択肢のない中、ファミリーメディカルプラクティスは患者を自分たちで海外搬送することを決断しました。

まずは、ECMOを取り付けた特注の担架ベッドを製作しなければなりません。様々な種類のケーブルやチューブが装着され、酸素ボンベなどの機器が設置された担架です。最終的には、担架の両先端に医療機器が積み上げられた状態に完成しました。患者を病院のベッドからその担架に移動して、ECMOを接続するまで5時間を要しました。

ベトナム航空の協力で、カーゴの入口ドアが大きい ATR の飛行機を確保できました。そして、技術チームと機内を医療搬送用に設計し、機体の中心部に担架ベッドを設置、機体後部に医療・サポートチームの待機場所を配置するなど改造を施しました。

搬送には、医師5名と看護師1名が伴います。また、多量のバッテリーを持参し、生体工学専門家が、医療機器への電力供給の調整を行います。また、万一に備え、ラボ検査員も携帯用検査キットを持ち込んで待機しました。搬送チーム一人一人が専門性を持って全力を尽くし、患者をホーチミン市からバンコクの病院へ搬送することに無事成功しました。

搬送先に到着後も…

一方、バンコクの病院にとってもこれは大変難しいケースでした。その病院は、それまでにECMO装置を取り付けた患者を扱ったことがなかったのです。ベトナムで患者に取り付けた装置から搬送先の病院の装置に切り替えなければならないのですが、その装置のメーカーが違うものだったこともさらに困難を極めました。ファミリーメディカルプラクティスの医療チームが3時間かけて、無事にECMO装置の切り替えを行いました。

患者をバンコクの病院に託し、ホーチミン市への帰路に就いてからやっと自分たちが大変なミッションをやり遂げたのだと実感しました。その患者は3ヶ月間バンコクの病院に入院し、その後無事にロシアへ帰りました。

ファミリーメディカルプラクティスは、マイナーなケースから始まり、このECMO搬送のような難しいケースまで、様々な海外・国内医療搬送を行ってきました。いまやベトナム国内で緊急医療搬送において最も実績を持つクリニックとして知られています。この実績をもって、ファミリーメディカルプラクティスは緊急医療搬送が可能なクリニックとして1998年に正式な認定を受け、 ベトナムは世界で7カ国目のECMO搬送可能国 となりました。

さらに詳しい情報は、WORD magazine(英語)にてご覧いただけます。http://wordvietnam.com/blogs-columns/medical-buff/medical-evacuations

<著者紹介> ラフィ・コット医師 ファミリーメディカルプラクティス 院長・CEO 30年程前に医療プロジェクトのためにイスラエルより渡越。1994年にファミリーメディカルプラクティスを設立。 ベトナムの医療を知り尽くし、明確なビジョンでベトナムの医療を牽引してきたパイオニア。 国内の恵まれない地域の生活向上への貢献にも積極的に取り組んでいる。

著者紹介
ファミリーメディカルプラクティス
20年以上の実績を持つ、インターナショナル・クリニック。ホーチミン市、ハノイ、ダナンの3都市に、5つのクリニックを開設。

日本人医師、日本人スタッフも常駐。日本語ホットラインは救急時24時間対応。

救急医療・搬送サービスも提供。救急医療 専用番号 *9999
気になる医療の話@ベトナム
その他の記事はこちら>
© Viet-jo.com 2002-2024 All Rights Reserved. 
※VIETJOベトナムニュースは上記の各ソースを参考に記事を編集・制作しています。 免責事項
新着ニュース一覧
自宅でヒキガエル肉を調理、児童1人死亡・1人重篤 (4:20)

 南中部高原地方総合病院は19日、自宅で調理したヒキガエルの肉と卵を食べた児童2人が中毒を起こしたと発表した。  19日昼、南中部高原地方ダクラク省クロンパック郡に住むY君(11歳)は、自分でヒキガエルの...

教員の4割超が給与と保護者のプレッシャーに悩み (4:14)

 ベトナム国家大学ホーチミン市校(ホーチミン市国家大学=VNU-HCM)傘下の政策開発研究所が先般発表した調査結果によると、教員の25.4%が学校内で、8.2%が学校外で生徒向けに補習授業を行っている。  この...

エクセル・クリエイツ、ハノイに駐在員事務所を開設 (3:46)

 医療機関向けパッケージソフトウェアの製造・販売を手掛ける株式会社エクセル・クリエイツ(大阪府大阪市)は11月、ハノイ市に駐在員事務所を開設する。  これを機に、ベトナムをはじめとする東南アジア諸国...

ハノイの街角、アヒルを連れて散歩する名物男性 (17日)

 午後3時、ハノイ市ハイバーチュン区ファムディンホー街区在住のグエン・ゴック・クアンさん(男性・61歳)が、手に持った棒で地面を叩くと、生後4か月の真っ白なアヒルは「散歩の時間だ」と理解し、クアンさんの...

ハノイ:国際建築展示会「ベトビルド」、11月27日から開催 (2:47)

 ハノイ市ナムトゥーリエム区の国立展示建設センター(1 Do Duc Duc, quan Nam Tu Liem, TP. Ha Noi)で、11月27日(水)から12月1日(日)まで、国際建築展示会「ベトビルド・ハノイ2024(第4回)(VIETBUILD Ha Noi 202...

米空軍、ベトナム空軍に練習機5機引き渡し 国防協力の重要な節目 (21日)

 米空軍は南中部沿岸地方ビントゥアン省ファンティエット空港で20日、ベトナム空軍に米国製の練習機「T-6テキサンII(T-6 Texan II)」5機を引き渡した。  式典は、米空軍太平洋空軍司令官のケビン・B・シュナ...

タイWHA、タインホア省で工業団地開発 投資総額80億円 (21日)

 ブイ・タイン・ソン副首相は19日、北中部地方タインホア省で計画されているWHAスマートテクノロジー工業団地のインフラ整備案件に関する投資方針を承認する決定第1431/QD-TTgに署名した。  投資主は、タイ...

ビンファスト子会社、シュナイダーなどとグリーンエネルギーで協力 (21日)

 地場系コングロマリット(複合企業)ビングループ[VIC](Vingroup)傘下の電気自動車(EV)メーカーであるビンファスト(VinFast)の子会社、ビンファスト・エネルギー(VinFast Energy)は、

車両の排ガス基準のロードマップ、25年1月1日施行 (21日)

 チャン・ホン・ハー副首相は、輸入車両と国内製造・組み立て車両に求められる排ガス基準の適用ロードマップを規定する首相決定第19号/2024/QD-TTgに代行署名した。同決定は2025年1月1日に施行される。  首...

プロジェクターの中国XGIMI、ナムディン省に工場建設へ (21日)

 スマートプロジェクターとレーザーテレビの設計・製造を手掛ける中国のエクスジミー(XGIMI)はこのほど、北部紅河デルタ地方ナムディン省のミートゥアン工業団地内でプロジェクター生産工場の建設に向けた地鎮祭...

ベトジェットエア、「グリーンフライデー」で運賃キャンペーン (21日)

 格安航空会社(LCC)最大手ベトジェットエア[VJC](Vietjet Air)は、「ブラックフライデー」に対抗してサステナブルな消費を促す「グリーンフライデー」のキャンペーンとして、11月27

「教員の給与を公務員の中で最高水準に設定」、国会で一致 (21日)

 国会は20日、教師法草案を審議した。議員らは、収入の圧力が教育業界への優秀な人材の誘致を阻害する原因の一つになっていると指摘し、優秀な教員を確保すべく、教員向けの給与政策を刷新することを支持した。 ...

ビングループ、ロボット研究開発子会社を設立 (21日)

 地場系コングロマリット(複合企業)ビングループ[VIC](Vingroup)は、ロボット研究開発を手掛ける子会社「ビンロボティクス(VinRobotics)」を設立した。  ビンロボテ

阪急阪神不動産とシーアールイー、ハイフォンで物流倉庫を着工 (21日)

 阪急阪神不動産株式会社(大阪府大阪市)と株式会社シーアールイー(東京都港区)は、シンガポール政府系企業セムコープ・デベロップメント(Sembcorp Development)と共同でセムコープ・インフラ・サービシズ(Sembco...

投資コンサル会社社長を詐欺で逮捕、被害者7500人以上 (21日)

 南中部沿岸地方ダナン市警察は18日、顧客7500人以上から金銭を騙し取ったとして、GFDI投資コンサルティングのグエン・クアン・ホアン社長(男・36歳)とチャン・ティ・ミー・ハイン資金管理部長を詐欺・資産横領...

©VIETJO ベトナムニュース 2002-2024 All Rights Reserved