前回のコラム で、 グルーミングサロン テンテン より説明しました通り、ベトナムでは日本と違い、暑い気候が年中続くため、ノミ・ダニが動物に与える影響は大きく、予防や対策はとても重要です。
今回は、 佐々木動物病院 より、ノミ・ダニが引き起こす病気についてお話します。
ノミ・ダニが媒介する感染症とは?
ノミ・ダニは共に吸血することによって 湿疹 、 皮膚炎 、 掻き壊し 、 脱毛 などの症状を引き起こします。症状によって注射や飲み薬、塗布剤などを組み合わせた治療や予防を行っており、日本とそれほどの差はありません。
しかし、 ダニ に関しては、ノミとは違った観点でこの病気を考えなければなりません。
動物に寄生して吸血し、痒みや皮膚炎を起こすといった症状はノミ・ダニに共通しますが、最も深刻に考えなければならないのは、ダニが吸血した際に媒介する数種類の 病原微生物 です。種類によっては人間にも感染し、 命が奪われてしまう 場合があるからです。
■日本で確認されているヒトと動物におけるダニが媒介する病気■
ウイルス | ダニ脳炎、SFTS |
---|---|
細菌 | ライム病、野兎病 |
リケッチア(微生物の一種) | 日本紅斑熱、エーリキア症、アナプラズマ症、バルトネラ症、ヘモプラズマ症 |
原虫 | バベシア、タイレリア |
近年日本では重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の感染が確認されており、人の死亡例があったことは記憶に新しく、ダニに対する社会的な関心が高まっています。獣医療域においては、九州地方など比較的暖かい地域で発生している バベシア症 (バベシア原虫により引き起こされる溶血性の疾病)は注目すべきマダニ媒介微生物として、古くから日本の獣医師が治療を行ってきました。
ノミ・ダニの吸血によって感染する病原性微生物への予防・治療
昨年11月よりこのベトナムの地で治療を行っておりますが、熱帯地域特有の疾病に戸惑いを感じています。特にダニ媒介微生物の症例が多く、死亡例も出ています。
その中でも、 アナプラズマ症 (ダニが媒介する微生物により引き起こされる発熱性疾患)の感染動物の治療が続いています。臨床症状は、 発熱( 39°C以上) 、鼻血、貧血、食欲不振、沈うつ、嗜眠、下痢 などがみられ、時に 跛行 (足を引きずるようにして歩くこと)や 神経症状 が見られることがあります。
診断は、簡易検査キットにより容易に感染しているかが分かります。
治療法はまだ確立されていませんが、健康な犬から輸血をしたり、バベシア症に使用している各種抗生物質、ジミナゼンジアセチュレートなどの治療薬を用いることにより良好な結果を得ている症例もあります。
また、最近日本でも発売されることになった新薬の効果が期待されており、我々の病院でも今月より使用していく予定です。
健康な犬からの輸血用の採血 輸血用の容器に入った犬の血液
このような深刻な病気に感染しないため、生活環境に犬や猫がダニを持ちこむことを避けるように、動物たちへの ノミ・ダニ予防は積極的に実施するべき であると、私たち獣医師は常に考えています。
ましてや人間にも感染する病気でもあります。飼い主への影響も考えなければなりません。
当院では診察をしたあとに、ノミ・ダニ予防薬(滴下・塗布タイプ、飲み薬タイプ)を処方しております。
ダニが寄生することにより、人や動物の命を脅かす様々な病原微生物の予防や治療は、ベトナムにとってかなり重要な位置を占めています。
私たち日本人獣医師は病院に勤務しているベトナム獣医師や看護師、併設しております グルーミングサロン テンテン と共に、そして同じ建物内にあるペットショップ Belwee とも協力して、日本の予防医学の知識や技術を伝える努力をしていきたいと考えています。
<著者紹介> 佐々木動物病院( http://10i4.com ) 院長 佐々木将雄 【所属学会、資格】 日本獣医師会 会員、日本小動物獣医師会 会員、日本獣医癌学会 会員、獣医麻酔学会 会員、日本獣医循環器学会 会員、動物臨床医学研究所 会員、日本獣医臨床病理学会 会員、日本獣医腎臓泌尿器学会 会員、ベトナム社会主義共和国 獣医師国家資格、日本栄養士協会サプリメントアドバイザー認定資格、麻薬取扱い業務管理者免許、臨床心理カウンセラー資格、労務管理士 |