男性歌手の「Mr.ダム」ことダム・ビン・フンそっくりの歌声を響かせながら、ホーチミン市の市場で雑貨を売り歩く、視覚障害の男性がいる。彼の歌声を初めて聴いた人は誰もが驚き、それが彼の地声であることを知ってまた感心し、称賛する。
(C) thanhnien |
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北中部地方タインホア省出身のファム・バー・ホンさん(36歳)は、スピーカーと商品の雑貨を乗せた荷台を押して、ハスキーな声でMr.ダムの名曲を歌いながら、市場の近くの通りを行ったり来たりする。古びたシャツは汗でびっしょりだ。
道行く人々はホンさんの歌声を聴き、立ち止まってホンさんから綿棒やキーホルダーを買ったり、何も買わずに「飲み物でも買って」と少しのお金を渡したりする。ホンさんは市場の人たちとも顔なじみで、いつもの店で休んだり、雨やどりをしたりもする。
ホンさんは、3歳のころに麻疹にかかってから両目が見えなくなった。16歳のときに点字とマッサージと楽器を学ぶようになって以来、ホーチミン市内の視覚障害者たちと知り合う機会が増え、南部で生計を立てることについて電話で語らううちに、ホーチミン市に移住して自立することを決めた。
最初は宝くじを売っていたが、ひったくりに遭ったり古い番号とすり替えられたりして元手を失ってしまったため、綿棒を売り歩くようになった。それが縁で、ホンさんは生涯のパートナーとも出会った。
ある日、たまたま結婚式で歌を披露したとき、居合わせた楽器奏者と歌手がホンさんの声を「Mr.ダムにそっくりだ」と褒め、ホンさんに音楽の知識を共有した。これがきっかけとなり、ホンさんはスピーカーを購入して、歌いながら通りを歩いて商売をするようになった。
ホンさんの家族は農民で、父親は角膜移植手術の費用を得るために故郷からホーチミン市へ出稼ぎに行っていたが、その最中に交通事故に遭い、亡くなってしまった。息子の手術のために父親がホーチミン市で稼いだお金は、父親の死後の諸々に消えていった。
その後、とあるテレビ番組でホンさんは約4000万VND(約22万7000円)の資金提供を受けた。ホンさん夫婦は、その資金で妻の故郷である南部メコンデルタ地方ティエンザン省に小さなマッサージ店を開いたものの、数か月後に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流行し、夫婦の夢はあえなく途絶えてしまった。そして妻子を故郷に残し、1人で再びホーチミン市に戻った。
そんな中、2021年にホンさんはドイツから帰国した養母のサポートで片目の手術を受け、片目に20~30%程度の薄暗い光を取り戻した。30年以上も暗闇の中で生きてきたホンさんにとって、その光はまるで希望の光のようだったという。