家では不運な息子のために今後の準備を整えたが、ここでガンさんがバンさんの臓器提供同意書の用紙にサインをし、皆が驚いた。「60年近く生きてきて、私は臓器提供とは何か知りませんでした。でも、医師から息子の一部が他の人の体の中で生き続けられるという説明を聞き、色々と考えさせられました。もし息子を火葬すれば灰になってしまうだけですが、臓器を提供すれば人を助けることができます」とガンさんは悲しげに回想した。
(C) vnexpress |
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ガンさんが同意書にサインしたことで、見知らぬ5人が命を救われることになった。その日の夜、第103軍医病院ではバンさんの心臓と腎臓2つが摘出され、3人の命が救われた。その後、2枚の角膜が摘出され、新たに2人が視力を取り戻し、再びこの世界を見ることができた。
「村では、私が金銭目的で息子の臓器を提供したと言う人もいました。また、バンが亡くなった時に遺体を安置しなかったため、非人間的で不道徳だと言う人もいました」とガンさん。「息子の臓器を売った」という陰口は、長い間ガンさんを苦しめた。
そんな中、2016年の年末に事態が変わった。バンさんの心臓を移植してもらった、北中部地方クアンビン省に住む海上警察官のグエン・ナム・ティエンさん(男性)が感謝を伝えにガンさんの家を訪れたのだ。
「門の外のティエンさんを見ると自然に涙が溢れ、何かに突き動かされるように私は走り出し、彼を抱きしめました。そして、バンの心臓が中で動いている左胸に顔を当て、『息子よ』と呼びかけたのです」とガンさんは振り返る。
ティエンさんは黙って立ったまま、泣きじゃくるガンさんを支えていた。半年前、彼は瀕死の状態だったが、バンさんの心臓のおかげで助かることができた。