ベトナムのロミオと北朝鮮のジュリエット

2011/04/24 08:04 JST配信

 カインが国へ帰った後、フイはすっかり希望をなくし、生きる気力さえも失うほどだった。数か月後、フイのもとにベトナムにいるカインからの手紙が届き始めた。手紙はいつも女性を装った偽名で、彼女の母親の所に送られてきた。2人の関係は秘密にしていたので、いつも余所余所しい言葉で互いの状況をたずね合うしかなかった。そんな素っ気ない手紙からも、フイは十分カインの気配を感じることができた。フイはその手紙を何百回も読み返した。カインもまた、フイからの手紙を宝物のように大切にしていた。

(C) Bao Moi
(C) Bao Moi

 1978年、カインは3か月の期限付きで北朝鮮へ研修に来る機会を得た。但し社会の風潮は変っておらず、フイに会うために変装しないといけないこともあった。3か月の期限が近づいてきたとき、カインは腹を決めて手紙に真実をしたため、北朝鮮婦人連合に救いを求めようとした。この国の状況を彼よりもよく知るフイはそれを止めた。フイはカインの手を取り、こう言った。「あなたは国に帰って。私はこれからも待ち続けるから。」

 帰国後、カインは北朝鮮関係のあらゆる運動機関にかけあいはじめた。北朝鮮人権擁護団体、北朝鮮大使館へも直接かけあった。これらの活動を通して少しずつ夢の実現に近づいていると信じていた。しかし、1992年に受け取った手紙を最後に、フイからの音信が突然、途絶えてしまった。カインは何とかしてフイの消息を知ろうとしたが、何の情報も無いまま時間が過ぎていった。

 1997年、ベトナム外務省長官が来朝することを知ったカインは、すぐに助けを求める手紙を書いた。長官は協力を約束してくれたが、しばらくして彼のもとに届いたのは、北朝鮮大使館からのフイが既に結婚しているとの知らせだった。数年後には、さらに痛ましいことにフイが既に故人であるとの知らせを受け取った。カインはそれらを決して信じようとせず、あきらめることはなかった。その後、北朝鮮上層部が訪越した際、彼らの通訳を務めていた友人がハム・フンの街でフイは今も元気に暮らしていて、カインのことを待ち続けているという嬉しい知らせを届けてくれたのだった。

 フイへの愛がますます高まったカインは、待ち続けた。そして2002年、ついにチャンスはやってきた。ベトナム国家代表団が北朝鮮を訪れるという機会があったのだ。カインは幾晩も考え抜き、代表団の指導者達に救いを求める手紙を出した。それからまもなく、カインは突然、北朝鮮北朝鮮最高人民会議常務委員会から婚姻承認の知らせを受け取る。

 カインはすぐに結婚の準備をして、手続きを済ませ、平壌の空港に向かった。数日後にはフイも到着し、31年間の長きにわたる遠距離恋愛の末、二人は再会した。ベトナムに戻り、2002年にハノイの教会で2人は結婚式を挙げた。花婿は54歳、花嫁は55歳になっていた。

 2人は現在、カインが退職して建てたという控えめな家で暮らしている。昨年、結婚後、初めて北朝鮮を訪れたという。北京まで列車で44時間、さらに2日かけて平壌にたどり着いた。帰国に際して、国の規定により夫妻は平壌までしか入れなかったが、それでも祖国に降り立ったフイはとても嬉しかったという。

 2人は在平壌ベトナム大使館を訪れたとき、職員からこう知らされたという。今でもハム・フンの街ではリ・ヨン・フイの愛の物語が語られていると。

前へ   1   2   次へ
[Phú Thái Baomoi 08/02/2011 07:01:00 AM (GMT+7) U]
※VIETJOは上記の各ソースを参考に記事を編集・制作しています。
© Viet-jo.com 2002-2024 All Rights Reserved 免責事項

この記事の関連ニュース

 ベトナム戦争下の東南部地方ドンナイ省で交際し、その後生き別れとなっていた元米軍兵の米国人男性とベ...

新着ニュース一覧

 カンボジア公式訪問を開始したチャン・タイン・マン国会議長は21日、カンボジアの首都プノンペンで、同...
 ベトナム共産党政治局・書記局は20日に開かれた会合で、政治局員・国会共産党連合会書記・国会議長在任...
 ワインの輸入販売などを手掛けるエノテカ株式会社(東京都港区)は11月25日、ホーチミン市1区のホーチミ...
慣れない海外生活、急病や事故
何かあってからでは遅い!
今すぐ保険加入【保険比較サイト】
 午後3時、ハノイ市ハイバーチュン区ファムディンホー街区在住のグエン・ゴック・クアンさん(男性・61歳...
 住商アグロインターナショナル株式会社(住商アグロ、東京都千代田区)は、ベトナムの農業資材販売会社で...
 ベトナム最大の企業管理職向けソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を運営するアンファベ(Anph...
 南部メコンデルタ地方カマウ省人民委員会は19日、ダムゾイ郡でダムゾイ・カイヌオック・チャーラー(Dam...
 ホーチミン市人民委員会は21日、12月の商業運転開始を予定している都市鉄道(メトロ)1号線(ベンタイン~...
 21日から23日までの日程でマレーシアを公式訪問中のトー・ラム書記長は21日、最高儀礼に則り盛大に執り...
 ドミニカ共和国を公式訪問中のファム・ミン・チン首相は現地時間20日、ルイス・ロドルフォ・アビナデル...
 米不動産サービス大手クッシュマン&ウェイクフィールド(Cushman & Wakefield=C&W)がこのほど発表した...
 南中部高原地方総合病院は19日、自宅で調理したヒキガエルの肉と卵を食べた児童2人が中毒を起こしたと...
 ベトナム国家大学ホーチミン市校(ホーチミン市国家大学=VNU-HCM)傘下の政策開発研究所が先般発表した...
 医療機関向けパッケージソフトウェアの製造・販売を手掛ける株式会社エクセル・クリエイツ(大阪府大阪...
 ハノイ市ナムトゥーリエム区の国立展示建設センター(1 Do Duc Duc, quan Nam Tu Liem, TP. Ha Noi)で、...
トップページに戻る