ハノイ市ドンダー区にある集合住宅のわずか8平米の部屋に住む男性フィー・クアン・フイは現在23歳、英語とウェブクリエイターになる勉強を続けている。彼は10歳のときに突然発病し、体がどんどん弱くなり歩けなくなってしまった。母親はなんとか息子の病気を治そうと奔走、家を売ってお金を作り西洋医学から東洋医学まで試してみたが、何の効果もなかった。
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5年前にハノイ市タインスアン区の病院にリハビリテーションに行ったとき、医師らはフイの病気を筋萎縮と筋力低下が次第に進行していく筋ジストロフィーと診断した。今のところ根本的な治療法はないという。当初彼は非常に落ち込んだが、やがてこう思うようになった。「神様は僕に明晰な頭脳を授けてくれたのだから、自分が暮らせるよう、そして自分と同じような境遇の人の力になれるよう努力しよう。母をこれ以上悲しませたくない」
フイは小学校5年生の課程を終了しただけだったが、母親や友人たちに英語とコンピューターの本を買ってくるよう頼み、独学した。母親はそんなフイのためにお金を工面してコンピューターを買ってやった。彼はブルードラゴンという組織が実施していたオンライン英語教育プログラムを受けた。さらに同組織からウェブクリエイター養成コースの学費免除を受け、現在その勉強に励んでいる。
自分の夢に向かって着実に歩んでいるフイは、自分と似た境遇の人を助けることも忘れていない。英語の先生からハノイ市フースエン郡のマイサー集落に住む24歳の女性の話を聞いたフイは、昨年4月に彼女に会いに出かけた。ダン・ティ・リンは8歳のときポリオにかかり、それからずっと車椅子で生活している。彼女の体は麻痺しているが、本や雑誌を読むのが何よりも好きだという。
フイは数カ月間かけて本や雑誌を集め、昨年10月それらをレンタカーに積んで、友人らと共にリンの家に向かった。こうして「希望文庫」が誕生した。それはまさにフイや身体障害者、貧しい地区の子供たちの希望であり、この文庫を通して希望を実現させてほしいという願いが込められている。
「希望文庫」はリンが管理している。フイは文庫を充実させるため、篤志家からの寄付集めに力を入れている。文庫の蔵書数はまだ数百冊に過ぎないが、マイサー集落では子供たちからお年寄りまでが立ち寄る場所になっているという。