英国ロンドンのセント・ジョン通りではベトナム料理の看板が多くの人の心を引き付けている。この通りでは、英国人が経営する「ロンドン初のフォー専門店」とベトナム系ノルウェー人が経営するベトナム料理の専門店が対峙している。
ロンドンのハックニーは、多くのベトナム人が住み、ベトナム料理も多く見られる地域だ。よって、フォーも「本場に劣らない」一杯が味わえる。しかしここで注目を集めているのは、英国人のジュリエットとステファンのフォー屋だ。その理由の一つは、"Vietnam in a bowl"というネーミングにある。店主の2人は、フォーがベトナム人にとって国を代表する料理であることをよく理解しているのだろう。
2人がフォーの専門店を開くことにした理由は明快だ。「何よりもフォーが大好きだから」と、30歳ほどのほっそりとしたジュリエットは微笑みながら言う。そんな2人がフォーと出会うきっかけとなったのは、2004年にアジア各国を旅行し、ベトナムに立ち寄った時のことだ。「誰もがフォーを注文していて、私達も試してみることにしたんです。どんな料理か、また食べ方も知らなかったんですよ。でも大変気に入りました。健康にもとても良いですしね」。
帰国後、2人は一緒にフォー屋を開くことを決めた。自分達のアイデアを理解してくれるベトナム人のコックを雇った。ベトナム料理は辛すぎず、脂も控えめ、かつ新鮮な材料を使うので好評のようだ。「私達の店には多くの常連さんがいますし、中には1週間に5回も食べにいらっしゃる方もいるんです」とジュリエット。
彼女は、フォーを味わってくれる客に話しかけたり、料理の説明をすることを大事にしている。特に、自分の好みに合わせて味を調節するというベトナム人の食事の仕方についての話をよくするそうだ。
現在、彼らの店ではフォーが1杯6~7ポンド(約1320~1540円)、またミルクコーヒーが1.5ポンド(約330円)である。
"Vietnam in a bowl"の向かいには、「ベトナム料理とビール」と看板を掲げる「本場」シクロ・レストランがある。「本場」と称するのは、多くのベトナム料理の店が中華料理やタイ料理の看板を掲げる中で、ベトナム人によるベトナム料理の店であるという自負による。店主のチェウさんはこのように述べる。「もちろん自信はあります。ベトナム料理は美味しいので、本場のベトナム料理だけを出すことに自信を持っています」。料理の味付けは本場そのものだが、盛り付けは西洋風にしている。客層を中流以上に絞っているためだそうだ。
40歳を過ぎたばかりの小柄なチェウさんは、南中部ニントアン省ファンランで生まれ、15歳の時にスウェーデンに移住した。そしてスウェーデン人の夫と結婚した。
シクロという名前には2つの理由があると語ってくれた。1つには夫がとても気に入っている乗り物であること、2つには自分の祖国にだけある乗り物だからだそうだ。店の装飾にもシクロは欠かせない。ベトナムからステンレス製のシクロを取り寄せて店先に飾り、また店内にもシクロの模型が壁に飾られている。
開店から4ヶ月が経ち、店先にはオシャレな形のシクロに興味を引かれる客の姿がよく見られるようになった。中にはシクロと写真を撮らせてほしいと言う客もいる。並んで立つ者、座席に座ってみる者、軽快に乗る者もいれば恐る恐るという者もいる。彼らにとってこのシクロがベトナムにとの最初の出会いとなっているのだろう。