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カインさんは楽譜を見ることができないため、先生が音符を読み上げるのを聞き、先生に手を添えてもらって音符と鍵盤の位置を覚えなければならなかった。カインさんは、その最初のレッスンの日が2015年5月19日だったということを、今でもはっきりと覚えている。
片手ずつ音符と鍵盤の位置を覚えたら、今度は先生の助けを借りながら、暗記した両手の動きを組み合わせる。「鍵盤が見えないので、遠く離れた鍵盤を弾くときは感覚で手を動かします。最初は手探りでしたが、だんだんと感覚で覚えていきました」とカインさんは語る。
最初のころは、どんなに短い曲でも3~4時間は練習が必要だった。楽譜3ページ以内の短い曲を完成させるのに1~2か月、4~8ページの曲ともなると、半年か、曲によっては1年かかった。
曲が難しくなるにつれてカインさんの練習時間も徐々に増えていき、練習を始めたばかりのころは1日1時間半ほどだったのが、いつしか3時間になった。そして、ベトナム国立音楽院の入学試験に向けて準備をしていた2022年8月から2023年半ばにかけては、鍵盤に触れる動きの癖をなくし、手の形がより美しく見えるようにすることを目標にして、1日6時間は練習していた。大きなコンクールの前には、さらに多くの時間を練習に費やす。
カインさんはこれまで多くの賞を受賞してきたが、その中でも初めて参加したコンクールで1位を受賞したことは、省レベルの小さなコンクールではあったものの、今でも最も印象に残っているという。
他の受験生と同じように入学試験を受け、ベトナム国立音楽院のピアノ科に合格した初めての視覚障がい者となったカインさんだが、彼の指導を担当する同院のチエウ・トゥー・ミー博士によれば、カインさんには実は若干の聴覚障がいもあるという。
「他の科には視覚障がいのある学生もたくさんいますが、ピアノ科では彼が初めてです。ピアノの構造は非常に複雑で、横幅は1.5m、弦は200本以上、鍵盤は88鍵あります。カインさんのように視覚障がいのある人はもちろん、普通の人だってピアノを学ぶのはとても難しいんです」とミー博士は話す。