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<明日は明日の試合がある>フィリップ・トルシエ(元サッカー日本代表監督) ベトナムで育成世代にサッカー全力指導中【前編】

2019/08/04 03:00 ICT配信
(C) Miwa.A
(C) Miwa.A

日本ではレボリューションが必要だった


―――ベトナム人選手はどうですか。日本人と比べて違いますか。

ベトナム人は感情を表に出す。これは日本人との大きな違いで、強みです。サッカーは人間がやるものですから、選手は何を考えているかを積極的に示し、相手に伝える必要があります。日本では、相手がうれしいのかうれしくないのか、そんなことでさえわかりにくかった。こちらから察しなくてはいけない。

ここではオーケストラに例えれば、楽譜の読み方、楽器の弾き方から教えています。1998年の日本代表候補選手たちは、そんなことはもうとっくにできていました。日本人の選手の個々の基本技術力はフランス人選手にも全く劣りません。私が当時日本で試みたのは、レボリューション(revolution改革、革命)でした。クラッシックならどんな曲でも演奏できる優秀な音楽家たちに、いきなり「ロックをやれ」と指示した。スキーで言うと、ゲレンデなら最上級コースでも滑れる人を「場外行くぞ」と連れ出した。ボディコンタクトに不慣れな彼らの体にどんどん触って、コミュニケーションした。思いもよらない事態に反応する、一人一人の人間の感情を表に出してほしかったからです。

―――日本人の感情表現は、他の国とそれほど違いますか。

日本で仕事を始めてすぐに、日本には“個人”という考えがないことに気づきました。日本人は全員が、自分のいるコミュニティの中での社会的、政治的、契約的立場を理解し、その役割を完璧に果たそうとします。フランスでは個人と個人が集まった集合体を集団と呼びますが、日本は、集団のシステムがまずあって、それがそこに属する個人に役割を与えている。フランス人はグループの中にいたって、自己主張します。納得いかなければ反論するし、怒るし、しまいには規則を守らず勝手な行動をしたりする。“個人”はグループの中にいても、自立した人間として反応するからです。日本ではそれはありえない。集団は一つの塊で、感情表現も感性の違いも反論も、全く求められていないことを皆が理解している。グループの一員となったら、誰もが自然に“個”を消す。

―――それがサッカーにどんな影響を。

それは、強みにもなり弱みにもなります。

サッカーで勝つには、集団力が60%、個力が40%必要だと私は考えています。日本の集団としての連携技術は世界トップレベルで、この60%部分の完璧さで多くの試合に勝てます。残る40%の個力、これは個々の技術力だけではありません。試合が予測しない展開になった時のとっさの判断、アイディア、それを周りに伝える能力、反応する動き、それぞれの選手が集団の役割外の“個人”で考えて動くしかない時に発揮される力のことです。

アフリカの選手に集団としてプレーせよと教えることも、フランス人選手に、集団の規則を守れと教えることも、大変なことなのです。日本チームはその両方をもう完成させている。しかし、アフリカや欧州のチームにあるような、個の力と創造性で、行き詰った状況を打開する力は日本にはまだ不足しています。

―――では、個力を鍛えるにはどうすればよいのですか。

日本にいると難しいでしょう・・・。“個”を抑える考え方は、日本社会全体の特性であって、サッカーだけの話ではありません。外国に住み、外国人とサッカーをして肌で感じることが一番です。今の日本の代表選手の多くは海外チームに所属していて、かなり変わってきているはずです。ただ、注意しなくてはならないのは、海外暮らしが長く、海外では自己主張をしている日本人でも、ひとたび日本へ帰ると、自然に元の日本人に戻ってしまうことが多々あることです。帰国したとたんにあっさりと日本のマナーコードに順応してしまう。私はそれを“システム・ワカリマシタ”と言ってます。だいたい私自身がそうなってきました。仏人らしく最初の頃はさんざん抵抗して主張していたのに、このごろは日本へ行くと「ワカリマシタ、ソウデスネ、ハイ、アリガトウゴザイマス」そういう感じです(笑い)。

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