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ベトナムで初めてHIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染者が確認されたのは、今から30年前の1990年のことだ。
国内初の患者はホーチミン市に住む当時30歳の女性で、結婚を控えていた交際相手の男性から感染した。感染が確認されてから、女性は経過観察を受けながら1997年に抗HIV薬(antiretroviral drug=ARV)の投薬を開始し、30年が経った現在も状態は安定しており、エイズを発症することなく普通の生活を送っている。
保健省HIV/エイズ予防局によると、初めて感染者が確認された1990年から現在までに生存している国内のHIV感染者数は21万3008人、HIV感染による死亡者数は10万7812人となっている。また、年平均の新規感染者数は1万1000人で、毎年2800人の感染者が死亡しており、多くは30歳以下の若年層となっている。HIV感染は東南部地方と南部メコンデルタ地方の男性に顕著だ。
2020年1~8月期のHIV新規感染者数は7090人、死亡者数は1392人だった。新規感染者数の年齢層は16~29歳(45%)と30~39歳(31%)に集中している。主な感染経路は、◇性行為による感染(76.4%)、◇血液を介した感染(11.9%)、◇母子感染(1.1%)となっており、中でも男性の同性間の性行為による感染が深刻となっている。
一方、同局のホアン・ディン・カイン副局長によると、国内におけるHIV/エイズ検査は医療機関での検査のほか、コミュニティ規模での検査や自己検査など多様化しており、新規感染者の発見に寄与している。
また、コミュニティにおける組織やHIV/エイズ予防部署などの活動強化のほか、薬物中毒治療薬(オピオイド)の研究も継続して行われ、HIV/エイズの治療環境は日々変化している。現在、国内では5万2000人のHIV患者がオピオイド系の合成鎮痛薬メサドンにより治療を受けており、高い効果が認められている。
ベトナムは直近10年間で、◇HIV新規感染者の減少、◇エイズ発症者数の減少、◇HIV/エイズによる死亡者数の減少という「3減」を果たしており、英国、ドイツ、スイスと並びARVによる治療で高い効果をあげている国として評価されている。2000年から現在までにおよそ50万人のHIV感染を予防し、20万人のエイズによる死亡を阻止してきた。
しかしながら、ベトナムにおけるHIV/エイズによる死亡者数は依然として高い水準にあり、感染経路の多様化や感染ハイリスク者の増加は国民の健康や社会経済に大きな影響を及ぼしているといえる。また、疾病関連のセンターなどの新規設立や合併、過去にHIV/エイズに関するプログラムやプロジェクトに携わった人材の異動により、省や郡レベルでHIV/エイズ予防活動の人材不足が課題となっている。
こうした中、2020年8月14日、2030年までにHIV新規感染者を年間1000人未満に削減することを目標に掲げた国家戦略「2030年エイズ撲滅」に関する首相決定が公布された。この戦略では、オピオイド系治療薬による治療の強化、感染ハイリスク者の曝露前予防内服(PrEP)処方、コミュニティ規模検査や自己検査、性行為パートナーや麻薬中毒者の注射針共有者の検査など、HIV検査サービスの多様化を促進し、HIV感染の早期発見を目指す。
このほか、HIV感染者の即時治療、日常的な治療、数か月分まとめての内服薬の処方、HIVと同時に感染するリスクのある結核や肝炎、性病の同時治療などを強化することでHIV/エイズ治療の質向上を図る。