ベトナムでは毎年多くの予算をつぎ込んで海外に人間を送り出し、最新の知識習得に努めている。しかしハノイ国家大学社会経済学部インターナショナルスクール局のゴ・トゥ・ラップ局長は、その前に世界の古典をベトナム語に訳す方が先決だと主張している。
ラップ局長はファン・チャウ・チン基金の「世界古典1000冊翻訳プロジェクト」の立案者。「ベトナム人の哲学教授は海外に出てもろくに議論もできない。なぜなら彼らはプラトンの作品さえ読んでいないからだ。ごく少数の人が原文で古典を読んでいるだけだ」と語る。ラップ局長が2003年に書いたエッセイをきっかけに知識人有志が集まり、ファン・チャウ・チン基金が設立され、このプロジェクトが進められることになった。
ファン・チャウ・チンは1910年代に活躍した啓もう思想家で民族主義者。現在では「ファン・チャウ・チン文化基金」として知られており、ベトナム人の作品を世界に紹介したり、海外のベトナム研究者の業績を称揚するプログラムを展開中だ。
今のところ、世界古典1000冊のうち10分の1が選ばれて翻訳が完了している。ジョン・デューイの『民主主義と教育』、イマニュエル・カントの『純粋理性批判』、ジャン・ジャック・ルソーの『エミール』など。翻訳済みの作品はインターネット上に公開され、大学の図書館で自由に閲覧できるという。しかし資金不足のため、プロジェクトは前途多難だという。