スケールの大きな鉄鋼投資
昨年12月下旬にベトナムの鉄鋼最大手であるホアファットグループ[HPG](Hoa Phat Group)が、中部ズンクァットの沿岸に建設した大規模な鉄鋼製造コンプレックスを見学した。
第1印象は「とにかく大きい」の一言。ホアファットグループが数年間に渡り巨額の投資資金および労力を投入した施設は、飛行機の窓からもハッキリと見える大規模なもので、まさに社運をかけたプロジェクトといえる。
筆者は、5年前に同社がベトナム北部ハイズオン省に保有するハイズオン鉄鋼製造コンプレックスを訪問した経験もあるが、その施設と比較して何倍も大規模な製造基地という印象を受けた。
<専用線路・鉄道を有する巨大設備>
<伊ダニエリ社の技術を導入した加工ライン>
動画<アイザワ証券証券の公式Youtubeチャンネル>
https://www.youtube.com/watch?v=qcorXtXAasM
古人いわく「鉄は国家なり」
様々な用途に使われる鉄の生産量は、一国の産業発展を推し量る指標という面がある。19世紀のドイツの宰相ビスマルクは製鉄業の育成に注力し、議会演説に際して「鉄は国家なり」との名言を発し鉄血宰相の綽名で呼ばれた。実際ビスマルクが宰相を務めた時期に、ドイツの製鉄業は躍進を遂げており、19−20世紀にかけてドイツやアメリカといった当時の新興国の粗鋼生産量が、先行する英仏を追い抜いている。
この歴史的な事象はその後も繰り返されており、20世紀には日本において高度成長期に造船業や自動車産業につながる鉄鋼業が生産量を伸ばし、80年代には世界一の粗鋼生産量を誇った。が、その日本も90年代半ばに中国に抜かれ、近年では首位中国と日本の生産量の間には約10倍の開きがある。
こうした歴史から、筆者はベトナムの粗鋼生産量の成長に改めて注目している。現在ベトナムの粗鋼生産量は、中国・日本・韓国・台湾といった東アジア諸国と比べて、大きいとは言えない。それどころかベトナムの粗鋼生産量は、2000年には近隣のインドネシア・フィリピン・タイ・マレーシア・シンガポールといったASEAN諸国の中で最下位であった。
しかし2013年に6か国中の首位となり、現在も急速に生産量を伸ばしている国である。そんなベトナムの鉄鋼産業発展を牽引しているのが、92年に設立されたホアファットグループ(HPG)である。
ベトナム鉄鋼産業の牽引役
筆者はホアファットグループの躍進を理解する鍵は、大胆な設備投資の歴史にあると考えている。先述の北部ハイズオン省キンモンに鉄鉱石や石炭という原料段階からコークス、銑鉄、鉄鋼と順次一貫生産する鉄鋼コンプレックスの建設に取り組んだ。同施設は、2009年頃から第1フェーズが操業し、2013年に第2フェーズが稼働期に入った。
ホアファットグループの業績は、施設の稼働と歩調を合わせて伸び、2013年から2019年までに売上高が約3倍、純利益は約4倍となった。売上総利益率も13年から16年にかけて上昇しており、大規模な設備投資が13年を境に業容拡大に寄与してきた軌跡が読み取れる。
またキャッシュフローの推移から、設備投資を含む資本的支出の項目が11~13年まで増加し、時を置いて17年以降に再度増加していることも読み取れ、これは設備投資の時期と符合する。配当面からは16年以降に現金による配当の支払いも一旦停止しており、設備投資に全力を注いだ様子が見て取れるが、直近2020年7月に現金配当を復活させている。
冒頭のズンクァット鉄鋼コンプレックスの話に戻ると、案内された第1フェーズの鉄鋼生産施設は、画像でご覧いただける通り真っ赤に溶けた鉄を文字通り生産し、稼働している様子を確認できた。
無論、今後に予定されている第2フェーズの設備投資負担も考慮しなければならないが、2020年第2四半期(4~6月)期の業績が、売上高と親会社株主帰属利益がともに前年比35%増と、四半期ベースで過去最高益となった件も考慮に入れると、2013年の数年間に見られた大規模な設備投資が業容の拡大へと繋がるパターンが、規模を拡大して再現される可能性も高まってきたと感じた企業訪問の現場であった。
アイザワ証券 市場情報部 国際公認投資アナリスト(CIIA®)
今井 正之
<アジア株取引20周年記念特別配信!ベトナム企業訪問記 ホアファット>
(※ホアファットについて動画でも紹介しています。ぜひご覧ください!)
https://www.youtube.com/watch?v=qcorXtXAasM