越語は日本語と似てる!?~単語の7割が漢字に由来~

2015/07/07 JST配信

ベトナム語学習者にとって、最大の難関はベトナム語の発音。ベトナム語は声調が6つ、母音の数が日本語の倍以上の11もあり、日本人にとって発音が最も難しい言語のひとつです。また、1語が1音節しかなく、発音が正しくないと全く通じないため、ベトナム語を習い始めると、まずはひたすら発音の練習。先生に「ちがう!」と言われても、日本人には発音の違いがちっともわからない・・・。そのため、初期の段階で挫折する人がとても多いです。でも、発音ではなく、単語に着目すると、ベトナム語は日本人にとって非常に学びやすい言語とも言えるのです。

 

単語の6~7割が漢字に由来

現在のベトナム語の文字はアルファベット表記ですが、ベトナム語は中国語の影響が強く、漢字由来の言葉がたくさんあります。ベトナム語の単語のうち6~7割は漢字が基となった「漢越語(Từ Hán-Việt、トゥハンヴィエット)」 です。漢字のベトナム語での読み方を「漢越音(Phiên âm Hán-Việt、フィエンアムハンヴィエット)」 といいます。

例えば、「ありがとう」をベトナム語で「Cảm ơn(カムオン)」と言いますが、これは漢字の「感恩」の漢越音です。地名も殆どが漢越語となっており、ハノイ(Hà Nội、ハーノイ)は「河内」の漢越音。日本語とは違い、漢越音はひとつの漢字に対して基本的にひとつであるため、漢越音を覚えておけば、初めて聞く(読む)ベトナム語の単語でも、漢字を当てはめて意味を推測することができます。ベトナム人が日本語を学ぶ際も、同じく漢越語を漢字に置き換えて日本語に当てはめているそうです。

書店では、日本語学習者向けの漢越語辞典が売られています。これは筆者が持っている『日本語の漢字書き方辞典(Từ điển Tra cứu và cách viết chữ Hán trong tiếng Nhật)』。現在でも20万VND前後で良質な漢越語辞典が手に入ります。これ以外にも、常用漢字だけを集めたものなど様々な種類が出版されています。

また、今の若い子の間ではスマートフォンのアプリで漢越語辞典を利用している人が多くなっています。無料で使えるものから有料版など様々ですが、紙の辞書の所持率はあまり高くないようです。

 

漢越語は中国語より日本語の音読みに近い

普通、「中国語(北京語)と日本の音読みが同じ漢字でも全く違う発音をするように、ベトナム語と日本語の発音も全く違うのでは?」と思いますよね。ところが、 ベトナム語の漢越語の発音は、日本語に近いものが結構あります。

これは、元となった漢字の発生源(中国)から日本とベトナムが同じように離れているためと言われています。新語が生まれると、それは波紋のように周辺に伝播していくのですが、中心から遠くなるほど波が弱まるように、新語も伝わらなくなります。そのため、中心では発音がどんどん変化しているにも関わらず、離れた地域では古い発音をずっと使い続ける。つまり、日本とベトナム語の発音は、古い時代のものがそのまま残ったものと考えられ、変化してしまった現代中国語の発音よりも、日本の音読みとベトナム語の漢越音が似ているというわけです。

さて、先ほど例に出した「感恩」の発音、日本の音読み「かんおん」とベトナム語の「カムオン」が似ているということにお気づきの方もいらっしゃると思います。現代中国語の発音ではカタカナ書きにすると「ガンエン」なので、ベトナム語と日本語のほうがずっと似ていますよね。

 

日本語に似ているベトナム語

それでは、日本語の音読みに発音がよく似ている漢越語を具体的に見ていきましょう。

|漢字|音読み|漢越音|

|古代|こだい|cổ đại(コーダイ)|

|注意|ちゅうい|chú ý(チューイー)|

|留意|りゅうい|lưu ý(ルウイー)|

|同意|どうい|đồng ý(ドンイー) |

|悪意|あくい|ác ý(アックイー)|

|意見|いけん|ý kiến(イーキエン)|

|国歌|こっか|quốc ca(クオックカー)|

|愛国|あいこく|ái quốc(アイクオック)|

|衣服|いふく|y phục(イーフック)|

|管理|かんり|quản lý(クアンリー)|

|記念|きねん|kỷ niệm(キーニエム)|

|楽観|らっかん|lạc quan(ラックアン)|

|観念|かんねん|quan niệm(クアンニエム)|

|天然|てんねん|thiên nhiên(ティエンニエン)|

|大路|だいろ|đại lộ(ダイロ)|

|観察|かんさつ|quan sát(クアンサット)|

|改革|かいかく|cải cách(カイカック)|

|感動|かんどう|cảm động(カムドン)|

|独断|どくだん|độc đoán(ドックドアン)|

似ているものの一例を挙げましたが、これ以外にもまだまだあります。

日本語のように、ベトナム語も漢越語のほうが改まった硬い言い方で、普段の会話よりも新聞など硬い内容の書き言葉に漢越語が多く出てきます。また、南部の人より北部の人のほうが漢越語を多用するため、南部の人が北部の人のしゃべり方を聞くと「普段の会話も演説しているみたい」と感じるようです。

漢越語を覚えると、ベトナム語の語彙が格段に増えるだけでなく、日本の漢字をベトナム語読みしてみると、ベトナム人に通じてしまうことが多々あり、会話力アップに繋がります。例えば、「管理=Quản lý」→「理論=Lý luận」→「論戦= Luận chiến 」→「戦役=Chiến dịch」・・・ というように同じ漢字を使った熟語で覚えていけば、語彙の幅がどんどん広がっていきます。またベトナム人の名前も殆どが漢越語ですので、人の名前を覚えるのにも役立ちますよ。

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