「熱帯の国だから一年中暑くて何の変化もないんでしょ」と思われていることが多いベトナムですが、南北に長く、途中を山でさえぎられていたり、海に面する角度が違ったりすることで、地域によって気候に大きな差があります。それを知らずに「週末にちょっと国内旅行でもしてみるか」と下調べせず他の地方へ出かけると、どしゃぶりで一歩も外へ出られなかった、なんてことにもなりかねません。そこで、ベトナム各地方のベストシーズンをご紹介したいと思います。
ベトナムには3つの気候区分がある
中学校の地理で習う ケッペンの気候区分 でベトナムの気候を調べると、狭い国土なのに3つの気候区分に分かれています。
北部は「熱帯」ではなく「温帯」。夏に雨の多い「 温帯夏雨気候 」に属します。中部と南部地方は「熱帯」ですが、中部は季節風(モンスーン)の影響で気候が大きく変わる「 熱帯モンスーン気候 」、南部は雨季と乾季が明瞭に区別される「 サバナ気候 」に属しています。
ベトナムでは中部と南部の雨季と乾季が逆になっているのですが、これは季節風の吹く向きと地形によるものです。季節風は10月から4月くらいまで北東から南西に向かって吹きます。このとき季節風は、ベトナムとラオスの間を走るチョンソン山脈(Dãy núi Trường Sơn)~中部高原の山塊にぶつかり、特に空気が湿っている10月から12月にかけて中部地方に雨を降らせます。雨が降ったあとの乾いた空気がベトナム南部に下りてきますので、南部からメコンデルタ地方は晴天の日が続くのです。
5月から9月ぐらいまでは南西から北東に向かって風が吹くため逆の現象が起こり、南部で雨が多く、中部では乾季となるわけです。3月~5月ぐらいは季節風の変わり目で風が凪いだような状況となるため、中部・南部ともよく晴れますが、9月~10月の変わり目は台風シーズンにあたるので、中部・南部ともに天気が悪くなります。
【豆知識】かつてはこの季節風を利用して「朱印船」が日本とベトナムを往復しており、ホイアンに日本人町が形成されました。ベトナムから見ると日本は北東に、日本から見るとベトナムは南西にあり、季節風の風向きと同じです。
「ベストシーズン」というと、やはり雨があまり降らず、気温は暑すぎず寒すぎず、という時期だと思います。北部、中部、南部に分けて、主要都市ごとにベストシーズンを見ていきましょう。各省・市の場所については、こちら を参照してください。
北部のベストシーズン
ハノイ市周辺:11月がベスト
(C) Cyril Doussin / CC-BY-SA
北部には四季があるのですが、年の半分、5月~10月頃が夏で、12月~2月が冬、その合間に春と秋がある感じです。ベトナムで夏に南から北上すると、北へ向かうほど暑いという不思議な体験ができます。 ハノイ市 は年中湿度が80%以上と高く、「空が青くなる日がない」といわれるほどどんよりしたお天気で、特に雨季にあたる夏はジメジメして風が抜けず、旅行に適したシーズンとは言えません。
冬は15~20℃程度の気温なのですが、湿度が80%もあるため、体についた水分がどんどん熱を奪って、体感温度はもっと低く感じられます。中国大陸から寒気団が張り出してくると気温が10℃を下回ることもありますが、暖房器具が揃っておらず、ホテルに帰っても寒い思いをすることも。
旅行にいいのは春か秋ですが、春は日本と同様、寒気団の張り出し具合で気温が大きく上下し、安定しません。そして春うららの気分を味わう前に突然夏に突入してしまいます。一方の秋は春より天候が安定しますが、10月に台風が直撃する可能性が高いことから、11月がベストシーズンと言えるでしょう。
サパ: 10月~11月
(C) Phi Phi Hoang / CC-BY
北部山岳地帯にあるサパ( ラオカイ省 )は標高1600mに位置し、年間を通じて気温が17~23℃のすごしやすい気候です。但し、6月~8月は雨が多く、12月半ば~2月は厳しい寒さとなり雪が降ることも。特に冬は霧でせっかくの棚田が殆ど見えません。3月~5月と9月~11月が過ごしやすく、特に晴れて棚田がよく見える10~11月がベストシーズンと言われています。
中部のベストシーズン
フエ、ダナン、ホイアン、ニャチャン:3月~8月
(C) NgBK ホイアンの町並み
多くの世界遺産が存在する中部地方は、日本~ダナン直行便が運行されるようになったこともあり、最近日本人観光客が増えています。フエ市( トゥアティエン・フエ省 )、 ダナン市 、ホイアン市( クアンナム省 )、ニャチャン市( カインホア省 )の周辺は、10月~11月が最も観光に向かない季節。季節風の向きが変わって海から湿った空気をもたらし降水量が急増することに加え、台風が直撃して、毎年のように洪水が発生します。また、1~2月は平均気温が20℃を下回り結構寒いので、3月から台風の影響が少ない8月がベストシーズンといえるでしょう。
(C) NgBK ニャチャンの海
ホイアンやダナン、ニャチャンについては、マリンスポーツを目的に行く人が多いと思います。スキューバダイビングをする場合は3月~8月の中でも風が弱く海がおだやかな4月~5月が海の透明度が最も良くなります。逆にサーフィンを楽しむ場合は波が高い10月~3月が適しています。
ファンティエット・ムイネー:1月~5月
ビーチと砂丘のあるリゾート地で有名なムイネーのあるファンティエット市( ビントゥアン省 )周辺は、ベトナムで最も乾燥している地域で、サボテンの仲間であるドラゴンフルーツの栽培が盛んです。この地域は地理的には中部に分類されますが、中部の南端に位置しており、気候区分では南部に含まれており、雨季は6月~11月、特に9月~10月の降水量が多いです。とはいえ、雨季でも南部ほど降水量が多くないので、台風の影響がなければ晴れる日が多いですし、長雨になることはまずありません。南部より雨季に入る時期が若干遅いので、1月~5月がベストシーズンです。
ダラット:11月~4月
(C) NgBK ダラットの景色
ダラットは中部高原に位置しますが、気候区分では南部に含まれ、雨季は5月~10月、乾季は11月~4月となっています。年間を通じて1日の気温が15~25℃ぐらいの常春気候。カップルがいちゃいちゃするのにちょうど良い気温なのか、新婚旅行のメッカとして知られています。但し、日中暑い時は30℃まで上がったり、逆に寒いと朝方5℃を下回ることがあります。安いホテルには暖房施設が整備されておらず、部屋の中でも防寒着が必要です。
乾季の11月~4月が旅行に適しているシーズンですが、気温が下がる1月は防寒着の用意をお忘れなく。2月以降に行くと、美しい春の花が楽しめます。
南部のベストシーズン
ホーチミン市、ブンタウ周辺:11月~3月
(C) NgBK ブンタウの町並み
季節風の影響で、ホーチミン市 、ブンタウ市( バリア・ブンタウ省 )のある南部は11月~5月半ばぐらいまでが乾季になります。特に1月~2月の旧正月(テト)前は比較的涼しい過ごしやすい時期となります。旧正月前は街中が活気付きますので、賑やかな雰囲気を味わいたいのであればこの時期が最適です。4月~5月は1年で最も暑い時期ですので、外出時は熱中症に要注意。また、ブンタウ周辺の海へ遊びにいく場合は、旧正月前は海に出るには気温が低い場合がありますので、3月~4月が良いでしょう。
南部の場合、雨季であっても、台風の影響がなければ長雨になることはなく、雨は1時間程度でやんでしまいます。雨が降ると気温が落ち着ついて過ごしやすくなりますし、何よりフルーツがおいしい季節。フルーツを堪能したいという方は雨季に来ることをオススメします。
フーコック島:11月~3月
(C) NgBK
フーコック島はホーチミン市より雨季の訪れが早く、乾季は11月~3月です。特に年末から旧正月までの時期が旅行に最も適しているでしょう。但し、乾季に行くと、島の見所のひとつとなっている渓流の水が枯れてしまいます。大自然に囲まれて川遊びもしたいという場合は、乾季でもまだ乾ききっていない11月~12月が良いでしょう。
コンダオ島:3月~5月
(C) NgBK シックスセンス・コンダオのビーチ
コンダオ島はバリア・ブンタウ省沖合いに位置する南部の島ではありますが、外洋に飛び出しているため、気候は南部と中部を混ぜたような感じです。乾季は2月~6月で、7月~9月にはスコールが降ります。10月~1月は北東の季節風が吹きつけ、天気がぐずつくことが多く、海で遊ぶには不向きです。季節風が切り替わる4月~5月は波が穏やかになり、ベストシーズンです。特に4月の海は鏡のように穏やかで、ダイビングやボートトリップに最適な時期です。
こうして見ると、ベトナム各地でベストシーズンが異なるため、季節ごとに色々な場所のベストシーズンを楽しめるようですね! ぜひ、旅行計画を立てる際の参考にしてください。
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