カナダ最大の都市、トロントは「人種のモザイク」とも呼ばれる移民の多い街。ミミズ採りといえば、数十年前までは主にイタリアやポルトガルから移民してきたばかりの人々がする仕事であったが、今では中国、韓国、ベトナムといったアジア系移民の間で盛んに行われている。地元の越僑の間で有名なベトナム人医師の中には、医学生時代、週末にミミズ採りをして学費を稼いだ人も少なくないという。
採ったミミズは、420匹を1瓶と数え、高い時は1瓶17~18カナダドル(約1700~1800円)、一番安い時でも1瓶8ドル(約800円)で売れる。名人になると一晩で60~70瓶、普通の人でも40瓶程度は捕獲でき、つまりたった一晩の収穫で数万円を稼げるということになる。
とはいえ、やはり楽に稼げる商売があるはずもなく、実際ミミズ採りは実に厳しい作業だ。ミミズの「シーズン」は春から秋までのおよそ8ヶ月。しかしミミズが採れるのは一シーズン中100日程度で、1匹も収穫がない日もある。作業は深夜、日が昇るまで、ミミズが地上に出てくる雨の日や空気が湿った日に行われる。額にライト、頭には小さな傘、採ったミミズを詰める瓶を入れたリュックを肩に担ぎ、手袋をし、何枚もの衣服を重ね着した上にカッパを着て雨と寒さに備える。長靴を履いた片方の足にミミズを入れるバケツ、もう片方の足には捕獲時のすべり止め用のふすま(小麦の皮のくず)が入ったバケツをくくりつけ、一晩中腰をかがめてミミズを探すのだ。
最近はシステム化されていて、仲介業者が農場主に年間数千ドルを支払い、ミミズを採らせてくれる農場を確保している。業者は毎日こまめに天気予報をチェックして、ミミズが出そうな日になるとミミズハンターたちに召集をかけ、農場まで送迎するという手はずになっている。それにしても、ミミズがなぜこれほどまでに高値で売れるのか。実はミミズハンターや業者ですら、採ったミミズが何に利用されているのかはっきりとは知らないのだが、「化粧品の原料や魚の餌として北米の企業などに売られている」というもっぱらの噂だ。
ミミズ採りには辛抱強さが求められるせいか、男性より女性の方がうまいという。暗闇でライトの光を頼りにミミズを探す彼女たちの耳には、ミミズ採りの稼ぎで買ったダイヤモンドのイヤリングが光り輝いていた。