(C) Sai Gon Tiep Thi, Huong Lan |
コアさんはドゥアさんの最初の教え子の一人だ。一緒に学んでいた生徒十数人が戦争に行ったが、幸いにも全員生還し、指に怪我をした者はいなかったという。今、コアさんの中年弦楽団にはメンバーが10人ほどいるが、いずれも正真正銘の農民だ。普段は農作業に精を出し、時間が空いた時にだけ練習する。「農民の指にはたこができているから、町の演奏家のようにいい音は出せない」とコアさん。しかし農民たちの演奏にはなにより暖かい心がこもっている。
ある時、テン村の弦楽団にスウェーデン文化発展基金が目を留め、約7000万ドン(約28万円)を贈ることを決めた。コアさんたちはこの資金を使ってハノイの著名なバイオリン職人レ・ディン・ビエンさんに製作を依頼した。村を訪れたビエンさんは農民たちの活動に感動し、壊れたバイオリンの無料修理をしてくれた。
さて、この村には青少年の弦楽団はないのだろうか。コアさんは少し暗い表情になって、「今の子供たちは電子鍵盤楽器が好きなようだ。うちの子もバイオリンには興味を示さない。将来が心配だ」と話した。夕方になると、あちこちからさまざまな音が聞こえてくる。コアさんのバイオリンの音が一瞬、その騒音の中に消え入りそうに思えた。