グエン・バックさんと同棲中に、タイン・リンさんは女友達との間に子供ができた。しかし、子供が生まれて1か月も経たないうちに、母親は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により幼い我が子を残してこの世を去ってしまった。彼女は生前に残した手紙で、自分の代わりとしてリンさんのパートナーであるバックさんに子供を託した。
(C) dantri |
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6月のある夜、リンさんとバックさんの同性カップルは、結婚式に出席するため、息子を連れて出かけた。息子のあだ名はトラを意味する「コップ(Cop)」。会場に到着してコップくんのおもらしに気付いたリンさんは、バックさんを連れて急いでトイレに駆け込んだ。
リンさんは、バックさんが準備していたおむつや着替えを持ってきたつもりだったが、うっかり全てを家に忘れてきてしまった。リンさんがあたふたしているそばで、バックさんは落ち着いてホールに戻り、友人からバイクの鍵を借りて必要なものを買いに行った。
「子供をきれいに拭いて、荷物をまとめてやっと披露宴会場に入り、席についたら周りはもう1品目の料理を食べ終えたところでした」とリンさん。
コップくんはリンさんの実の息子だ。「LGBTQ+」の中で、リンさんはB、いわゆるバイセクシュアルにあたる。ある日のパーティで昔からの女友達と再会し、酔った勢いでかつて好きだったと告白されたリンさんは、その女友達とときどき会うようになり、一線を越えた。そして、彼女は妊娠した。
当時、リンさんとバックさんはパートナーになって5年が経っており、同棲もしていた。バックさんはG、いわゆるゲイだ。
女友達は教会で育った孤児で、子供の父親であるリンさんとは結婚もしていなかったため、彼女自身も妊娠は受け入れがたいものだった。それでも新しい命を失う勇気が出ず、一方でリンさんにバックさんと別れてほしいと強要できないこともわかっていた。
リンさんはというと、パートナーであるバックさんに後ろめたさを感じつつも、彼女に「産んで」と言うこともできないでいた。そうこうする間に時は流れ、お腹の子供も大きくなり、いよいよ隠し通すことはできなくなった。そしてリンさんはバックさんに「他の人との間に子供ができたんだ」と打ち明けた。
リンさんはバックさんが悲しんだり怒ったりするものとばかり思っていたが、話を聞いたバックさんは落ち着き払って、3人で会って最終的にどうするか決めようと話し合いの場を設定した。
話し合いの冒頭でバックさんは、何にせよ中絶だけは反対だと告げ、「子供に罪はないし、大人が間違いを犯したのなら責任を負い、解決しないと。生まれてくる子供の父親と母親として、2人は結婚するべきだ」と言った。