テト(旧正月)が近づいてくると、よく質問されるのが 「Ăn tết ở đâu ?(アンテット オーダウ)」 、直訳すると 「どこでテトを食べるの?」 。ベトナム語をまだ習い始めたばかりだと、「テトを食べる!?何言ってるの?」とびっくりしてしまいますが、実はこの場合は 「テトをどこで過ごすの?」 という意味になります。ベトナム語の「ăn」は「食べる」という意味だけではなく、特に口語表現の中では様々な意味で使われています。ここでは、食べる以外の7つの「ăn」の使い方を紹介すると共に、なぜベトナム語では「食べる」を使った表現が多いのかを考えてみました。
(C) NgBK
食べる以外のいろいろな「ăn」
1.(宴会などに)参加する、祝う
▽ ăn cỗ(アンコー)/ ăn tiệc(アンティエック):宴会を食べる → 宴会に参加する
cỗ / tiệc=宴会(北部表現 / 南部表現)
「宴会」といえば「食べる場所」、ということで、宴会に参加すること自体に「ăn」という言葉を使います。
▽ ăn tết(アンテット):テトを食べる → テトを祝う
そして、冒頭に書いた「ăn tết」ですが、テトには宴会がつきもの、一日中人が集まって食べたり飲んだりして過ごします。そのため、「テトを祝う」ことを「ăn tết」と言うのです。よくベトナム人は日本人に対して次のように尋ねます。
▽ Người Nhật ăn Tết theo âm lịch hay dương lịch ? :日本人は旧正月を祝いますか、それとも新暦正月を祝いますか?
theo=従う、âm lịch=旧暦(陰暦)、dương lịch=新暦(陽暦)
また、テト期間は通常の祝日より長いですので、お祝いをする=その期間そこに滞在する、ということになります。従って、「ăn tết ở đâu ?」という質問は、「テトをどこで過ごすの?」と聞いていることになるわけです。
2.たくさん消費する(食う)
▽ ăn tốn xăng(アントンサン):ガソリンを食べて消費する → ガソリンを食う
tốn=消費する、xăng=ガソリン
日本語でも同じように「食う」という言葉を使いますので、わかりやすい表現です。
3.人気がある(需要が高い)
▽ ăn khách(アンカック):客を食べる → 人気がある
khách=客
例えばバスが人でいっぱいになるとか、映画館が人でいっぱいになる様子が、人を飲み込んでいるように見えるからでしょうか、たくさん集客していることを「客を食べる」と言います。人気の映画のことを「Phim ăn khách(フィムアンカック)」と言ったりします。
4.(お金などを)得る、受け取る、(勝負に)勝つ
▽ ăn lương(アンルオン):賃金を食べる → 賃金を得る
▽ ăn hoa hồng(アンホアホン):コミッションを食べる → コミッションを得る
▽ăn giải(アンザーイ / ヤーイ):賞を食べる → 賞を取る
lương=賃金、hoa hồng=バラの花、転じてコミッション(口銭)
お金を得ることで人は食べることができるわけですから、なるほどと思える表現です。また、トランプなどの勝負事やサッカーの試合などでの 「勝つ」も「ăn」を使う ことが多いです。
5.(ブレーキなどが)効く
▽ Phanh ăn(ファンアン):ブレーキが食べる → ブレーキが効く
▽ Hồ dán không ăn(ホーザン / ホーヤン コンアン):接着剤が食べない → 接着剤が効かない
▽ Giấy ăn mực(ザイ / ヤイ アンムック):紙がインクを食べる → 紙にインクがのる
phanh=ブレーキ、giấy=紙、mực=インク、hồ dán=接着剤
物事が効果的に行われることに対しても「ăn」を使います。効果があるかないか表現したいとき単語が思い浮かばない場合は、「ăn」を使うと通じる可能性が高いです。
6.~される(被る)
▽ ăn đòn(アンドン):食べる+叩く → 叩かれる
▽ ăn đạn(アンダン):食べる+弾 → 弾が当たる
đòn=(お仕置きで)叩く、đạn=弾
いいことだけが「ăn」ではありません。喜ばしくないことを被った場合にも使われるんですね。
7.(その動作を)積極的にする
▽ ăn mặc(アンマック):食べる+着る → 着る
(例)Tôi không thích vợ mình ăn mặc mát mẻ.:私は自分の妻が露出の多い服を着ているのを好まない。
▽ ăn chơi(アンチョーイ):食べる+遊ぶ → 遊ぶ
(例)Hội Đàn ông Chỉ Thích Ăn Chơi:遊ぶことだけが好きな男性の会
▽ ăn nhậu(アンニャウ):食べる+酒を飲む → 酒を飲む
(例)Tôi đã gặp bạn bè, ăn nhậu đến tận khuya.:友達に会い、深夜まで飲んだ。
▽ ăn tiêu(アンティエウ):食べる+使う → (金を)使う
(例)Để hắn ăn tiêu thoải mái thì bao giờ mới trả nợ được ?:あいつに好きなだけ金を使わせておいたら、いつになったら借金を返せるんだ?
▽ ăn xin(アンシン):食べる+請う → 物乞いする
▽ ăn cắp(アンカップ):食べる+(指などで)つまむ → こっそり盗む
▽ ăn trộm(アンチョム):食べる+盗む → 盗む
▽ ăn gian(アンザン / アンヤン):食べる+騙す → 騙す
後ろにくる動詞だけ言っても言葉の意味自体は同じですが、「ăn + 動詞」とすることで、いい意味でも悪い意味でも動詞の動作をその人が積極的にしているニュアンスが加わります。誰かの行動ややり方について評価したり批判したりする場合にこの表現を使うと、こなれた感じになります。
この7つ以外にも、「ăn」を使った表現がいろいろあるのですが、普段の生活で最も使用するものを挙げてみました。
(C) NgBK
なぜ「ăn」の意味が「食べる」以外にたくさんあるの?
やはり、「食べる」という動作は生きる上で必要不可欠なことですので、ベトナム語だけでなく、各国の言葉でも「食べる」以外の意味合いに使っていると思います。
とはいえ、やはりベトナムでは「食べる」を使った表現がかなり多いです。 ベトナム人の挨拶が「ăn cơm chưa ? (アンコムチュア)」=「ごはんたべた?」である ように、ベトナム人にとって食べることは他の国の人たちよりも重要なのかもしれません。
このことは、最近増えている日本への旅行の際のお金の使い方にも表れているように思います。日本政府が発表した2015年版観光白書によると、 訪日外国人旅行者の1人当たりの消費額を国別で見ると、ベトナムが23万7688円で第1位。 そして、支出の目的で見ると「買い物代」では中国が12万7443円で1位、ベトナムは8万8814円で第2位となっているのですが、 「飲食代」ではベトナム人が5万4361円で第1位 でした。第2位だったオーストラリアの人に比べれば体格が小さく、食べる量はずっと少ないと思いますので、比較的質が良いものを食べているのではないかという気がします。バックパッカーも含まれる他国旅行者と違い、ベトナム人旅行者は富裕層が殆どですので、単純には比較できませんが、普段のベトナムの生活からも、食にこだわるベトナム人が多いなと感じます。
ベトナム人でも、この「ăn」の表現を使いこなしている人に対しては「表現が巧みだ」と感じるようです。ワンステップ上のベトナム語を目指して、いろんなものを「食べて」みましょう!