ベトナムといえば、アオザイ。言わずと知れたベトナム女性の伝統服である。女子校生の制服としても定着しているそのアオザイに暗雲が立ち込めている。海外でも女子校生が白いアオザイを身にまとい自転車をこぐ姿は、ベトナムを象徴する美しい風景として人気があるが、実はこれを着ている女子校生たちの反応は様々だ。ある生徒は、「私はどちらかというと、太っているほうだから、アオザイ着たらどうなるかわかるでしょ?最悪だよ。」という意見や、「私は背が小さいため、風になびくアオザイのイメージとはほど遠いのよね。できれば着たくないですね」などの意見もある。
アオザイのよさは美しい体のラインがそのまま出るところだが、アオザイが敬遠されている理由に、アオザイはもはや誰にでも似合う服でなくなってきたことが大きな理由だ。10年ほど前にはベトナムで太った人を探すのはかなり難しかったが、近年は生活スタイルや食生活の変化により、特に都市部における若年層での肥満率が高くなっている。また、「風になびく長いアオザイ」は詩になり、歌にも歌われてきた伝統美の形容詞だが、これが逆にシャツとズボンの西洋スタイル比べ動きにくく機能的でないとも指摘されている。
日本も然り、世界中の多くの国で伝統服は日常の場から次々に姿を消し、単なる行事や式典など晴れの日に着る「ハレ着」となった。だがベトナムでは、アオザイは職場でも学校でも普通に見られる普段着なのである。生活スタイルの変化が普段着をハレ着にする。あと10年もすればアオザイが姿を消す、そんな日もくるかもしれない。