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[特集]

ホーチミンの貧しい下宿集落、子供たちが集まる識字教室

2025/03/16 10:29 JST更新

(C) VnExpress
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 週末の朝、13歳のニャンさんは3人の弟たちに早く起きてと声をかけ、ホーチミン市直轄トゥードゥック市タオディエン街区の下宿施設の裏庭で開かれる教室に連れ立って出かけていく。

 裏庭の一角を利用した教室には簡易屋根があり、生徒用の机と椅子がいくつか置かれているが、黒板はない。5歳から15歳までの10人ほどのクラスメイトがいる。

 9時ごろに先生が到着し、子供たちは年齢に応じて3つのグループに分けられる。グループごとに先生がつき、ベトナム語、算数、英語、ソーシャルスキルを教わる。

 この日、ニャンさんは作文の課題を与えられた。ニャンさんは夢中で書いて用紙を埋め、持ち帰って16歳の兄に見せびらかすつもりだという。兄は近所のごみ捨て場でスクラップを集めている。

 ニャンさんは学校に通ったことがないが、3世代の家族の中で初めて読み書きができるようになった。ニャンさんは兄と弟3人の5人きょうだいだが、誰も学校に通っていない。

 ニャンさんの母方の祖父母は少数民族のクメール族で、故郷の南部メコンデルタ地方ソクチャン省でフクロタケの下処理をする雇われ仕事をしていた。ニャンさんの両親は失業していた。一家は2015年にホーチミン市に移り住み、資源回収(ベーチャイ=ve chai)やスクラップ回収の仕事をするようになった。しかし、一家の収入を合わせても、月600万VND(約3万5000円)にも満たなかった。

 子供たちは病院で生まれたが、両親は病院代を支払う余裕がなく、逃げてしまった。出生証明書もなく、身分証明書も作ることができなかったため、5人とも学校に通うことができなかった。

 2017年、当時トゥードゥック市の文化大学に通う学生だったチャー・ホン・レさん(女性)は、ニャンさんと、ニャンさんと同じように教育を受けていない子供たちを偶然見かけた。いずれも地方からホーチミン市に出てきた自由労働者を親に持つ子供たちだった。彼らの親は、主に資源回収やスクラップ回収、バイクタクシーの運転手などの仕事をしていた。

 こうした状況を目の当たりにしたレさんは、子供たちが文字を読み書きできるようになってくれればと、下宿に本を持ってきて子供たちに文字を教えることにした。

 しかし最初のころは、子供たちは恥ずかしがって、数分勉強すると近所のごみ捨て場に走って逃げてしまった。親たちも教育にあまり関心がなく、多くは夜に仕事から疲れて帰宅すると、そのままドアを閉めて寝てしまった。もしくは、弟や妹の世話をする人がいなくなっては困ると、子供に勉強をしてほしくないという人もいた。

 それでもレさんはめげずに下宿に通ったが、1日に4回も出向いてやっと子供たちに会えたということもあった。そして数か月後、子供たちはきちんと座って勉強するようになり、文字を書き、計算ができるようになった。

 数年後には生徒の数が増えていき、レさんとホーチミン市青年団の青年労働者支援センター(YEAC)は学生ボランティアを動員して学習の指導にあたることにした。ホーチミン市青年団や地方自治体、そして学校とも連携し、教室の運営をサポートしてもらった。

 YEACは下宿施設のオーナーであるドー・タイン・トゥイさん(女性・35歳)と話し合い、教室に充てるスペースを検討した。そして裏庭のごみ捨て場を改修し、大きな防水シートを集めて屋根を作り、古い車輪を再利用して椅子を作った。

 こうして識字教室が誕生し、15~20人の生徒が毎週日曜日の朝にここで勉強するようになった。5年が経ち、慈善家が机と椅子、そして生徒たちの朝食も支援してくれるようになった。

 現在、教室はトゥードゥック市タオディエン街区とタンフー区タンタイン街区の2か所にある。生徒たちは身分証明書がなかったり、両親に捨てられたり、知的障がいや身体障がいを持っていたり、自ら生計を立てなければならなかったりという事情のある子供たちだ。

 トゥイさんによると、タオディエン街区にある下宿施設は10部屋あり、各部屋の広さは20~50m2で、通常はファミリー向けに貸しているという。借り主は主にクメール族で、生計を立てるために田舎から移住してきたものの、経済的に苦しく、収入も不安定で、半数以上の子供たちが学校に通えていない。ただし、外国人が多いタオディエン街区で実際に外国人の客と接することもあるため、外国語の感覚が優れている子供もいる。

 「せめて読み書きができるように、子供たちに教室に通うことを勧めました」とトゥイさんは話す。今では、下宿の子供たちは全員、読み書きができるようになった。教えてくれた先生たちに感謝のメッセージを送ることもできる。

 ニャンさんたち5人きょうだいの祖母にあたるタック・ティ・フェップさん(女性・57歳)は、10年近く前にニャンさんたちとともにソクチャン省からホーチミン市に移住した。家族の誰も読み書きができず、孫を学校に通わせたいと何度も思ったが、フェップさんは身体が弱く、お金も足りず、手続きの方法もわからず叶わなかった。

 2024年半ば、レさんのサポートのおかげで、フェップさんは孫たちが生まれた5つの病院を訪れ、かつての病院代を支払い、書類をもらい、孫たちの出生証明書を取得した。おかげで現在は孫たちも皆、身分証明書を持っている。

 教室は下宿施設の敷地内にあるため、移動に時間もかからず、勉強も遊びもできる。自宅では、上の子が下の子の勉強を見ている。最近、政府が次年度から学費を無料にするというニュースを知り、フェップさんは孫たちも学校に通えるようになればと願っている。

 「孫たち皆、ずいぶん進歩しましたよ。以前よりも良い子になりましたね。読み書きができるようになるなんて、家族皆で喜んでいます」とフェップさんは話す。

 教室に通う、南部メコンデルタ地方バクリエウ省出身のバオ・ゴックさん(11歳)は、両親が離婚してから母方の祖母と暮らしている。ゴックさんは、「授業は楽しいし、朝ごはんも食べられるよ」と友人に誘われて、2年前から教室に通っている。

 ゴックさんは小学校5年生だが、友人の読み書きの勉強と復習を手伝うため、今でも教室に参加している。夏休みは土曜日と日曜日に教室が開かれるが、ゴックさんは皆勤賞だ。

 「先生や友達に会えて嬉しいから」とゴックさんは話した。 

[VnExpress 06:30 12/03/2025, A]
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