[特集]
手話で注文、聴覚障がい者が生き生きと働くハノイのカフェ
2024/11/03 10:05 JST更新
(C) baotintuc |
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ハノイ市ハイバーチュン区テーザオ(The Giao)通りにある、小じんまりとした静かなカフェ「フロウィー(flow-ee)」は、聴覚障がいを持つ若者たちの「家」でもある。
このカフェで働くスタッフたちは、「フラワー」と呼ばれている。カフェを訪れる客は手話で注文し、スタッフは注文の品を運んだ後に軽くお辞儀をしてから口元に両手を当てて前方に開き、言葉の代わりに手話で感謝を伝える。
フロウィーのスタッフで、手話通訳者 兼 マネージャーでもあるチャン・ゴック・マイさん(女性)は、手を挙げて手話で客に挨拶をしてからメニューを渡し、明るい笑顔で歓迎する。注文を受けてカウンターに戻ると、手際良くドリンクを作る。
マイさんをサポートするのは、同じく聴覚障がいを持つズオンさんとハーさんだ。3人は、テーブルの片づけ、果物の皮むき、ドリンク作りと、各々の仕事を受け持ち、いつも生き生きと働いている。
フロウィーは、最高経営責任者(CEO)であり、手話通訳者でもあるゴ・クオック・ハオさん(男性・1996年生まれ)と、他7人が出資するスタートアッププロジェクトで、聴覚障がい者の雇用を創出し、地域社会に価値を生み出すことを目的としている。
「プロジェクトのメンバー全員が、何らかの形で障がいや聴覚障がいのある人たちと接したり、一緒に働いたりしています。このカフェは、自身も車椅子ユーザーである女性メンバーのアイデアから始まりました。彼女が経営する会社のスタッフも3割が障がい者や聴覚障がい者です。彼女が聴覚障がい者にもっとダイナミックでクリエイティブな環境を提供するためにカフェを開きたい、というアイデアを出すと、メンバー全員が同意して、フロウィーが誕生しました」とハオさんは語る。
「フロウィー」という店名は、ハオさんいわく「流れ」を意味する「フロウ(flow)」に由来している。カフェのデザインにも曲線を使い、上り下りと浮き沈みを表しているのだという。これは、障がいを持つ人々が直面する困難、そして自身の能力を発揮できる環境にある時の創造力や喜びを表している。店のメインカラーは、人生の困難を表すグレーと、新鮮さと喜びを表すイエローでまとめている。
フロウィーが目指しているのは、障がいや聴覚障がいを持つ人々にとって安全でクリエイティブな就業環境を確保することだ。「どうして他の障がい者ではなく聴覚障がい者をカフェのスタッフに選んだのか、とよく聞かれます。私たちからすれば、聴覚障がい者は最も弱い立場にあるグループの1つです。言葉は話せなくとも耳は聞こえるという人もいますが、聴覚障がい者は耳が聞こえず、言葉も音を発することしかできず、話すことはできません。だからこそ、聴覚障がいを持つ人々にはより多くの機会が必要だと考えています。彼らに安全な就労環境を整え、雇用を創出することが、私たちが目指していることの1つなんです」とハオさんは話す。
カフェをオープンして間もない頃、プロジェクトのメンバーは皆それぞれ自分の仕事を持っていたため、カフェに時間を割くことが難しく、カフェの運営は困難を極めた。その後、各々が時間を調整してカフェに顔を出し、店のスタッフである「フラワー」たちをサポートするようになった。
現在、フロウィーには21歳から33歳までの6人の「フラワー」が在籍し、3人ずつ2つのシフトに分かれて働いている。ほとんどの「フラワー」たちは、これまでに織物や衣類クリーニング、スーパーマーケット、飲食店など、様々な仕事に就いてきた。
縁あってフロウィーで働いている聴覚障がい者たちは、障がいを持つ人々の受け入れや訓練を行う組織を経由して配属されている。
「フラワー」の1人であるマイさんは、東北部地方トゥエンクアン省で生まれ育ち、生まれつき聴覚障がいを持っている。現在は結婚して、同じく聴覚障がい者の夫とハノイ市で暮らしている。縁あってフロウィーのスタッフになったマイさんは、「毎朝目が覚めると、とても幸せな気持ちなんです。私の仕事はドリンクやピンス(韓国かき氷)を作ることで、最終的な目的はお客様においしいと感じてもらうことです」と話す。
マイさんはドリンク作りに情熱を持っており、自ら勉強してドリンク作りに関する資格を3つも取得し、レストランで働いた経験もある。マイさんは仕事をしながら、空いた時間にドリンクのレシピや調合について学び、理解を深めてきた。フロウィーでは、ドリンク作りだけでなく接客についても訓練を受けている。
多くの客が、マイさんが作ったドリンクをおいしいと賞賛する。このことで、マイさんは自分を認めてもらえた、他の人と同じように良い仕事ができたと感じられ、幸せな気持ちになれる。
「夫は私がここで働くことを心から応援してくれています。お客様もフレンドリーで、同僚たちも明るく、お互いに助け合って働いています。それに、ここで働くようになって以前よりお給料もだいぶ増えました」とマイさんは晴れやかな笑顔で語る。
フロウィーの魅力は、若々しく居心地の良い空間だけでなく、個性的なドリンクにもある。かき氷のフレッシュな甘さとリキュールの香り高くマイルドな辛さがバランスよく組み合わさったピンスをはじめ、クリエイティブでユニークなレモンコーヒー、オレンジコーヒー、ティラミスコーヒーなどのオリジナルドリンクも楽しむことができる。
当初のアイデアでは、アイスクリームにリキュールを組み合わせたメニューを開発しようとしていたが、試作した結果、フレッシュな果物のかき氷に様々な種類のリキュールを組み合わせたメニューが誕生した。
「パンダンリーフ味やスイカ味などのピンスを作るのは簡単そうに見えますが、初めの2か月は毎日午後6時から午前0時まで皆で集まり、かき氷とリキュールの最適な組み合わせのレシピを模索していました。そしてようやく、フロウィーならではの独特でユニークなメニューが完成しました」とハオさん。
オープンしてまだ日は浅いが、多くの客がこのカフェを訪れている。客層は多様で、スタッフの身内や友人のほかに外国人もおり、若者や聴覚障がい者が多い。そして、多くの若者や子供たちが、ドリンクのおいしさを「フラワー」たちに伝えたいと、挨拶と感謝を表す手話を教えてほしいとハオさんたちにたずねるのだという。
ハオさんたちにとっては思いがけないことだったが、これをきっかけにカフェでは今後、無料の手話のワークショップを開催し、カフェのスタッフたちが手話を教える予定だ。
「以前は、聴覚障がい者のスタッフはカフェで働いても本来の自分の力を発揮できず、フラストレーションを感じてしまうのではないかと思っていました。でも、スタッフは皆、とても自然にお客様と接しています。『フラワー』たちは私やお客様に、聴覚障がい者は小さく哀れな存在ではなく、むしろダイナミックで若々しい存在であることを教えてくれて、ここを訪れる多くの人にポジティブなエネルギーを与えてくれているんです」とハオさんは語った。
現在、フロウィーは店内飲食とテイクアウトのみのサービスを提供しているが、近くオンラインデリバリーを開始し、さらにホーチミン市にも新店舗をオープンする予定だ。
[Bao Tin Tuc 21:00 04/09/2024, A]
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